JAL再生の両輪となっているのが、稲盛和夫名誉会長がもたらした「意識改革」と「部門別採算制度」である。その、意識改革の「経典」の役割を果たしているのが、「JALフィロソフィ手帳」だ。
手帳には、JALのサービスや商品に携わる人たち全員が持つべき意識・価値観・考え方がまとめられていて、「意識改革」つまり、一人ひとりの「心を変える」ことに大きく貢献している。
社員の意識は、このJALフィロソフィによって、どう変わっていったのだろうか。連載第2回は、現場社員の声を集めてみた。(文中敬称略)

社員たちの証言<br />――倒産で失ったもの、そして得たもの後半で登場するJALグランドサービス大阪の西谷。グループ会社の現場にも「意識改革」は浸透しつつある。(撮影/原 英次郎)

「だからつぶれたんだ」と
言われ続け

 まずは、倒産したあの日、2010年1月19日前後に何が起きたのかを聞いてみよう。

JALスカイ羽田事業所 業務部国内パッセンジャーサービス業務グループでアシスタントマネジャーを務める長谷川陽子は、地上業務を担当するいわゆるグランド(空港)スタッフだ。これまで主要な地上(空港)業務をすべて経験してきた中堅社員である。

長谷川 私は通常通り羽田空港のチェックインカウンターでお客さま対応をしていたときに、「会社がつぶれました」と聞きました。本来なら会社がつぶれると、債権者の方がいろんな物品を持ち出したり、飛行機が運航できなくなる。
そういうお話を聞いていたので、本当にその日飛行機が飛ぶのか、ずっと不安でした。けれど、何事もなかったかのように飛行機は飛んでいたんですね。

お客さまからは、いつも通り飛行機の遅れに関することや、予約変更できないチケットを別便に替えられないかといった質問が多かった覚えがあります。今までであればご説明をして終わっていたのに、「だからダメなんだ、だからJALはこうなったんだよ」と、お叱りを受けたり、ちょっとしたミスで「ほらみろ、だからつぶれたんだ」とも、言われました。

……本当につらかったですね。カウンターに立っている女性たちは、恥ずかしながら、JALの経営のことについてはわからない。そんな中でひたすらお叱りを受ける。つらい局面で、強い口調で叱責されて泣いてしまう後輩の子もいました。お客さまの風当たりが、一気に変わったというのを感じましたね。