女性が働くことが当たり前の時代に
――末っ子が大きくなるにつれ、お母さんの就業率も上がっていきますね。
漆 いまは性別もグラデーションで捉えるようになり、さらなる多様性が生かされる時代がやってきますが、その前段階として、日本社会では女性の活躍が期待され、ポジティブアクションとして、いわゆる「枠」が確保される場合もあります。賛否はあれど、こうしたことがプラス要因となり、子どもたちの世代には、親世代が見たこともない数の女性が、見たこともない職種や立場で働くチャンスが巡ってきているのです。
一方、まだマイナス要因も少なくない。例えば、職場にロールモデルとなる先輩が少ないので、自分にできるような気がしなくて挫けてしまうこともあるでしょう。女性は男性よりリスクテイク志向が低いという研究もあります。そこで、中高時代に、ロールモデルとなるような社会人と接したり、仕事の意義を考えたり、失敗を乗り越える経験を積んだりして、やってきたチャンスを、勇気を持って受けられる準備をしておくことも必要です。
もう一つのマイナス要因として、正規雇用の割合がずっと全体の2割台にとどまっていることが挙げられます。専門性や客観的に専門性を示す資格を得ておくことは、本人が望んだとき、立場を選べる力になるでしょう。こうした男女の仕事環境の違いも伝えています。
――確かに。僕が塾をやっていたとき中高一貫校に進んだ女子で、いま活躍している人は弁護士や公認会計士の資格を持っていますね。
漆 こうした専門系に進むためには早めの意思決定が必要なので、それに合わせたライフデザイン教育を行っています。日本の高校の場合、高1の後半から文理選択が始まります。もちろん、それから文転や理転、入学後の転部も不可能ではなく、就職後も3年以内に3割の人が転職するという話もあります。
男性なら適職探しに時間をかけてもいいのかもしれませんが、女性が出産を望めば、そこにはタイムリミットがあります。日本女性の第一子平均出産年齢は30歳、その手前の、より出産リスクの少ない20代の1年をロスすることにならないような設計が必要なのです。
一方、職場には育児と仕事を両立しにくい環境が残っており、日本では、第一子出産の前後で女性の労働力率が下がり、その後復職することで折れ線グラフに谷間ができるいわゆる「M字カーブ」現象が、緩やかになりつつあるとはいえ、いまも存在しています。この谷間が来るのも30歳前後です。
28歳。結婚や出産のタイミングを考える一方で、仕事ではチームリーダーや海外赴任などを打診されて悩む方もいるような年齢です。そのときに私たち世代のようにどちらかを諦めなくてもよいよう、女子のライフデザインに特化した中等教育が必要だと強く思います。
――それが女子に特化した教育にこだわる理由なのですね。
漆 日本は、先進国の中で珍しいくらい女性の活躍の場が残っている国です。毎年、ジェンダーギャップ指数は世界100位以下と話題になります。女性の活躍が日本経済を活性化させるというウーマノミクスが提唱された1999年から、すでに20年以上がたっています。このときキャシー松井さんがおっしゃった、「女性の力は日本の含み資産」という言葉がいまも耳に残っています。
少子化の中で一人一人の力を伸ばすことがより必要ないま、従来主観的に言われてきた別学の特徴を、データの根拠も得ながら生かし、より効果的に女子教育を推進していきたいと考えています。