「殺人者」になった家族の苦悩
高齢者介護を巡る家族間の殺人や心中などの事件が多発している。息子や娘が手をかけてしまうことに加え、高齢の夫婦が「老老介護」の末に無理心中の悲劇に至る例も増えてきた。
介護保険制度が始まって17年近い。「介護の社会化」が浸透してきたはずなのに、介護専門職や介護事業所の目が十分に届いていない。
事件の全貌が明らかになる裁判の場で、「殺人者」になった家族の苦悩が吐露され裁判官まで涙を誘われる。ほとんどの判決は執行猶予が付く。だが、介護に追い詰められた家族を救うような介護サービスは依然として足踏み状態である。
介護者の相談先や一時的なレスパイト(小休止)になるような要介護者の一時的宿泊サービスはほとんど手付かずのままだ。都心部を中心に今後「老老介護」は急速に広がるなか、英国など先進国の事例を早急に導入すべきだろう。
最近の家族による介護殺人を振り返ってみると――。
●2015年11月:埼玉県深谷市の利根川で、両親の面倒を見ていた47歳の三女が両親と一家心中を図った。三女は認知症とパーキンソン病を患う81歳の母親の介護を10年以上続けていた。74歳の父親が病気になって心中をもちかけ、三女も同意したという。
裁判で三女は、「本当は3人で死にたかった」「父を証言台に立たせることにならずよかった」と嗚咽をもらした。
●2015年7月:大阪府枚方市で71歳の長男が92歳の認知症の母親を小刀で刺し殺す。長男は遺体と向き合いながら一夜を明かしていた。二人暮らしで7年間介護していた。
大阪地裁の裁判員裁判で、アルバイト生活を続けてきた長男の苦闘が吐露され「老老介護」の実態が明らかになった。
●2015年12月:栃木県那須町で72歳の夫が寝たきり状態の69歳の妻の首を絞めて殺害した。「遺体を車に乗せてきた」と警察署に自首し、「妻の介護に疲れて殺害した」と供述。要介護5の妻を11年間介護してきた。翌年5月の裁判員裁判で裁判長は、介護疲れによる事件であるとし「一定の同情の余地はあるが、1人で抱え込み短絡的に殺害した」と懲役3年6月(求刑懲役5年)を言い渡し、弁護側による執行猶予付き判決の求めを退けた。