トランプ大統領は、自動車産業など製造業とは友好的な関係を築いているが、シリコンバレーのテクノロジー企業は、反トランプ大統領の姿勢を露にし始めている。そのきっかけは、トランプ大統領が打ち出した一部のイスラム系国家に対する強硬な入国制限措置である。

 テクノロジー企業は、多くの移民が勤める「多国籍軍」である。自らも移民であるFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOを始めとして、Apple、Autodesk、Dropbox、Etsy、Google、LinkedIn、Lyft、Salesforce.com、Slack、Squareなどシリコンバレーの有名企業のトップが、次々と移民である自社社員を擁護し、入国制限に反対し、多様性の重要性やアメリカの価値観を守ることを主張しているのだ。

 日本は、米国のテクノロジー企業を積極的に受け入れてはどうだろうか。日本は現時点では、米国や欧州、そして中国などよりも、多国籍の優秀な人材にとって、比較的に「安全な場所」だといえる。また、この連載で指摘してきたように、日本は「地理的条件の良さ(欧州、北米、中東、アフリカ、アジアをすべてカバーできる)」「知識・情報の集積」「高い技術力」「質の高い労働力」「ブランド」「政治的リスクの低さ」という、外資が参入するのに適した条件をいくつも備えている(第52回・p7)。日本経済・社会の問題は「規制」が多いことだが、安倍政権が本気で規制撤廃を断行すれば、外資受け入れに絶好の環境となる。

 ITや人工知能など最先端の分野は、日本が弱い領域である。日本では、シリコンバレーで職を得るような人材は育成できていない(第70回)。しかし、テクノロジー企業のオフィスが日本に来るならば、日本の若者にとって多少は就職しやすくなるだろう。最先端テクノロジー領域を担う人材を、より育成しやすくなるのだ。

米英の大学に入りづらくなった
留学生を日本が受け入れる

 また、企業だけではなく、大学の役割も重要だ。前回、インドのナレンドラ・モディ首相が「インドからの留学生の地位を、EUからの移民と同じと考えてもらっては困る」と、テリーザ・メイ英首相に苦言を呈したことを紹介した(第149回・p3)。保守党政権の英国では、留学生の大学への入学基準が、筆者が在学した頃に比べて格段に厳しくなっている。また、米国でもトランプ政権の大統領令によって、留学生が空港で足止めされたり、強制帰国させられたりするケースが続発している。米国の大学でも、今後留学の基準は難しくなっていくかもしれない。

 それは、日本の大学にとっては、世界中から優秀な人材を確保する好機ということになる。日本の大学に対する批判は多いが、それでも「グローバル30」「世界展開力強化事業」「スーパーグローバル」と、文科省の助成金により、苦しみながら国際化を続けてきた成果は軽視すべきではない。

 多数の大学で英語で授業が行われるようになり、大量の留学生をサポートできる基盤ができつつある。今こそ、日本の大学は、米国や英国で学びづらくなった優秀な人材に対して門戸を開き、欧米の後塵を拝している研究水準と人材育成力を、一挙に引き上げる絶好の機会だと考えるべきだ。

 もちろん、日本が米国に食わせてもらえなくなり、途方にくれている新興国をサポートし、保護主義に舵を切った米国に代わって、自由貿易を守るリーダーになる志を持つことも大事である。これから始める日米の経済問題の交渉は厳しいものになるだろう。しかし、いかに米国の攻勢を凌ぐか、守ることを考えるだけではなく、従来の権威や価値観に捉われず、知恵を絞って「攻める」べき時が来ているのではないだろうか。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)