移民政策をめぐる議論の多くが感情論に終始し、その経済的・文化的・政治的効果に関する学術的研究の成果がないがしろにされているようだ

要約者レビュー

 今最もホットな話題といえる移民問題。2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が、「メキシコとの国境に巨大なフェンスを築き、メキシコからの不法移民を阻止する」などと過激な発言を行ったことは記憶に新しいだろう。こうした暴言がアメリカ国民からの一定の支持につながったことは、移民問題に関する誤った認識がはびこっていることの表れだといえよう。

『移民の経済学』
ベンジャミン・パウエル編、藪下 史郎(監訳)、佐藤 綾野・鈴木 久美・中田 勇人(訳)
368ページ
東洋経済新報社
2800円(税別)

 現在、移民政策をめぐる議論の多くが感情論に終始し、その経済的・文化的・政治的効果に関する学術的研究の成果がないがしろにされている。著者は、この由々しき事態に警鐘を鳴らし、移民政策の議論をより客観的かつ建設的なものにするために、膨大な調査結果の要諦を本書にまとめた。特筆すべき点は、このテーマに詳しい錚々たる論客が寄稿しており、世界の移民政策の功罪に対する考察も含まれている点だ。こうした点が本書の議論を、より包括的で厚みのあるものにしている。また、本書『移民の経済学』の後半部分では、この分野の専門家たちによる、「入国許可を誰が得るかは、競売制度で決めたほうが効率的かつ公平」、「国境を完全開放したほうがよい」といった大胆な提案が繰り広げられる。これに対し、著者はいずかの提言を推すというのではなく、こうした意見の違いについて冷静に分析を述べていく。

 移民についての誤った通説を覆し、より理にかなった対話に寄与するという著者の姿勢には感服せざるをえない。日本にふさわしい移民政策のあり方を議論する際にも、本書は非常に有用な視座を与えてくれるはずだ。 (松尾 美里)

本書の要点

・国際労働移動の障壁を撤廃することで、グローバルな富は世界全体のGDPの50~150%も増加するといわれている。
・アメリカ人労働者の雇用水準や賃金に対し、移民の影響はほとんどないことが判明している。
・移民の自由化政策は、送出国に残った住民の厚生をも向上させる。
・今後は、メキシコ国内の就労機会が増えると見込まれるため、メキシコからアメリカへの急激な流入もおさまると予測されている。