汚染水の処理は難題

 第一原発の沈静化に関してもう一つ忘れてはならないことは、大量の放水・注水を原因としてタービン建屋内等に大量に蓄積された高濃度汚染水の処理をどうするかという問題である。すでに一部の高濃度汚染水がピットを経由して地震で生じた割れ目から海中に流出しているのが発見された。高濃度に汚染された水を外部に流出させないためには、保管・管理を徹底する他はないが、敷地内の保管容量にも限界がある。比較的リスクの少ない低濃度の汚染水の処理が喫緊の課題となってきた。東電は海への放出を決断し、すでに一部の低濃度汚染水が海に放流された。最終的には汚染水は密閉されたサイクルの中で冷却水として循環させることが望ましいが、多くの関連機器が損傷している(と見られている)現状では、それは不可能である。海に放流するか、タンカー等別の容器に隔離保管するか、大別すれば方法はこの2つしかない。

 私は、低濃度であっても海への放流には慎重であるべきだと考える。この問題は、「ベント」の問題によく似ているが、大きな違いが一つある。「ベント」には他に採り得る選択肢がないが、海への放流には他の選択肢がある(かも知れない)という点である。海流の流れは複雑多岐にわたり、仮に低濃度の汚染水であっても、どこかに蓄積されないとは限らない。魚介類に対する風評被害はもちろんのこと、近隣諸国に対する外交上の問題もある。

 汚染水の海への放流については、ひとり東電の判断に任せるのではなく、政治家が責任を持って決断すべき事項だと考える。万が一にも後世の史家に「日本の原発事故は海のチェルノブイリであった」と評されるようなことがあってはならない。海への放流は他の選択肢の可能性をすべて試みた後での最終手段であるべきだ。