大気汚染や水質汚染に対する市民の不安を
タテ・ヨコ比較で取り除け
大気汚染や水質汚染については、大震災が起こって不幸にも放射性物質が放出された訳であるから、通常状態に比べて計測数値が異常値を示すのはむしろ当然のことである。大切なことは、それらのデータが隠蔽されずに定期的に開示され続けることと、それらのデータを見た普通の市民が、可能な限り客観的にその意味を理解できるような説明が適切になされることである。とりわけ、わが国の市民は元来核アレルギーが強く、放射線と健康についての関心が高いので、懇切丁寧な説明はなおさら必要だ。
計測データの開示については、政府の対応は一応及第点が付けられよう。ただし、世界の耳目がこれだけ集まっており、かつ日本産食品等への風評被害が現実に生じていることを勘案すれば、英語での開示にもう一工夫あってもよかったと思われる。
これに対して説明責任については、残念ながらまだ及第点は付けられないと考える。放射線の健康への影響については、事故現場等で一定量の強い放射線を浴びた場合の「確定的な影響」と後年がんなどが発症する長期的な「確率的な影響」に切り分けて考えるべきであり、大気汚染や水質汚染の場合は「確率的な影響」が主として問題となる。
放射性物質が基準を超えて検出された場合、私たち市民が知りたいのは、その数値が通常時の何倍になったかではない。まず知りたいのは、その異常値が示すリスクのレベル感である。たとえばアメリカへ航空機で一往復した場合、肺のレントゲン写真を撮った場合、あるいはがん発生確率で考えれば、受動喫煙の場合など他の事象と比較して、現状がどの程度の危険レベルにあるのかを確認したいのである。「安全だ」あるいは「リスクがある」等と、抽象論をいくら聞かせられても不安は消せない。このような「ヨコ比較」を丁寧に説明されて初めて、私たちは自分で判断を下すことが出来るのである。
そうであれば、そうしたヨコ比較が出来るように客観的なデータを平易に説明し提供することも、政府の情報開示の重要な役割だと考える。なお、わが国の放射性物質に関する基準値が、他の先進国や国際機関と比べて、どのようなレベルにあり、どうしてそうなっているのかという説明も欠かせないであろう。
ところで、ヨコ比較は、ある時点でのいわばフローのデータを基に判断するための一助に過ぎない。放射性物質については、仮に低濃度であっても人体に蓄積され続けていけばどうなるかという不安もまたぬぐえない。そのためには「タテ比較」が重要になる。今回の原発事故のタテ比較の事例としては、スリーマイルやチェルノブイリの原発事故に留まらず、例えばアメリカやソ連、フランス、それに中国の核実験時のデータが参考にならないだろうか。こうした事例を時系列にグラフ化し、時間軸での変化を可視化することによって、放射性物質拡散時のストック面での影響を私たち市民が判断できるような材料を提供してほしいと願うものである。
野菜や魚介類、飲料水等への暫定規制値についても、諸外国・国際機関の規制値を含めたこうしたタテ・ヨコの客観的なデータが併せて説明されれば、市民の(政府の)情報開示に対する信頼度は確実に高まるものと考える。
英知を結集すべき点は
福島第一原発の沈静化
現在、原子炉の燃料棒が相当程度損傷(25%~70%程度)したと見られる1号機、2号機、3号機の格納容器の中には大量の放射性物質が蓄積されていると考えられる。4号機の燃料プールを含めて、これらの放射性物質のこれ以上の拡散を防ぎ、福島第一原発を一日も早く沈静化させることこそが、震災復興に向けてわが国が為すべき最大、喫緊の課題であると考える。この一点に政官民の英知をまず結集したいものだ。