お互いに助け合う関係になれば仕事が続けられる

(c)清水貴子
橋中今日子(はしなか・きょうこ)
理学療法士。リハビリの専門家として病院に勤務するかたわら、認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟、の家族3人を21年間にわたって1人で介護する。仕事と介護の両立に悩み、介護疲れをきっかけに心理学やコーチングを学ぶ。自身の介護体験と理学療法士としての経験、心理学やコーチングの学びを生かして、介護と仕事の両立で悩む人、介護することに不安を感じている人に「がんばらない介護」を伝える活動を全国の市区町村で展開中。企業では、介護離職防止の研修も担当。ブログ「介護に疲れた時に、心が軽くなるヒント」では、「介護をしていることで、自分の人生をあきらめないで!」「あらかじめ対策を知っておくことで、問題は回避できます!」といった介護疲れを解消し、心がラクになる情報を発信中。NHK、TBSほか、テレビやラジオでも活躍中。

【橋中】話が戻りますが、仕事を続けるためにはまず、「働きたい」という意欲を見せる。介護や出産・育児があっても、働きたいと伝えることがスタートラインですよね。断られるかもしれないけれど、前例をつくって声をあげていくことが大事です。
【落合】クレヨンハウスも女性が多い職場です。今、ちょうど出産ラッシュなんです。会社としてはスタッフのやりくりが大変ではあるんだけど、出産を経て戻ってきた人は、介護している同僚の事情がとてもよくわかるんですよ。戻ってくれてよかったなと思う。

【橋中】おたがいに理解しあえますから。
【落合】出産は経験しない人もいるけど、介護はいつか誰でも通る道です。自分が体験して痛みを感じた人は、他の人が介護に直面したとき、自分もサポートしてもらったから、今度は自分がと思える。人は変わるということを、私もスタッフから教えてもらいましたね。

【橋中】助けあう関係になれるんですよね。
【落合】ただ、ここは政治的なマナーでもありますが、「介護で休みます」と言っても、周囲に嫌な顔をされて、同僚ともうまくいかなかったり。

【橋中】私の友人にデザイナーをしている女性がいます。社員3人だけの会社で、あとは社長と20代の若い女性です。友人は、休んだら代わりの人がいない状態でがんばってきて、親の介護が始まっても、その状態は変わりませんでした。もう10年選手なんです。ところが、ついに心身ともに疲れ果て、迷惑をかけることを承知で、社長に泣きながら現状を告白し、助けを求めたんです。
【落合】介護との両立で限界だったんでしょうね。

【橋中】でも、そのあといい方向に向かったんですよ。介護休業は取れなかったけれど、残業をやめさせてもらったんです。そして定時で帰るようにしたら、体力が向上して仕事の効率も上がった。さらによかったのは、「介護の大変さはなかなか理解してもらえないものだ」と思っていたところに、後輩の女性が結婚して出産したあとで、家事と育児と仕事のやりくりに苦労した。そこで初めて彼女も友人の大変さがわかったそうです。
【落合】自分が経験すると、人の痛みに気づくよね。

【橋中】で、後輩の女性と理解しあえるようになったら、今度は社長がケガで休むことに。社員3人がそれぞれ苦労したことで、お互いに支えあう関係ができたそうです。介護保険制度が利用できない環境でも、あきらめずに誰かが最初に「助けて!」という声をあげる。それが次の人を助ける。それが第一歩なんだと思いますね。