世界金融危機後、新しい世界への適応に手間取っている日本に対して、いち早く立ち直りを見せたのがドイツである。その好調をもたらしたものは何か、ドイツの成功に日本は何を学ぶべきなのか。ドイツの経済政策や企業経営にも影響力を発揮してきたローランド・ベルガー氏に聞いた。
政府や企業の長期的な取り組みがドイツ経済に成長をもたらした
現在、ドイツ経済はきわめて好調である。ユーロの下落が輸出産業を後押ししている面もあるが、私はドイツの政府や企業の取り組みの結果だと理解している。
(c) Junichi Waida
ドイツ政府は自由競争を推進する一方で、社会全体の利益拡大を図る目配りをしてきた。その自由競争の舞台はEUという巨大な経済圏だ。いまやEUはドイツ企業にとってホームグラウンドであり、輸出の6割はEU諸国向けである。
一方、ドイツ企業は長期的な視野に立った戦略の下、生産性向上やイノベーションに注力してきた。経営と労働組合の関係は良好で、企業の労務費は10年で3%ほどしか上昇していない。多くの経営者は短期的な株価の動きに左右されることなく、顧客や従業員、取引先、社会への貢献に配慮して事業を運営してきた。
EUの1体化を受けて、ドイツでは多くの産業分野でM&Aによる企業統合が進んだ。たとえば10年前、ドイツには10社ほどの鉄道車両メーカーが存在していたが、現在はシーメンス1社のみである。通信や航空などの産業では、国境を超えた大規模な企業統合が行われた。
また、かつては多角化志向の企業が少なくなかったが、現在ではコア・ビジネスに集中する傾向が強まっている。自社の強みを見極めたうえで、その強みをグローバル市場に展開するのである。
グローバル化というと、単にドイツのモノやノウハウを輸出するという側面が注目されがちだが、ドイツ企業は"内なるグローバル化"も積極的に進めている。ドイツを代表する企業の経営者の顔ぶれを見ると、その国籍は実に多様だ。多様性の観点でつけ加えれば、経営幹部として企業を牽引する女性の姿も珍しくない。