教訓3 小さく始めて慎重に大きくする

 ニュー・グロース・ファクトリーがどのようにスタートしたかを思い出してほしい。始まりは、簡単な2日間のワークショップだった。次に、いくつかの事業ユニットにおける小規模なパイロット・プロジェクトへと拡大し、その後、全社的な取り組みに発展していった。

 段階的な投資であれば、仮説に基づいて走り書きした組織図を確定させてしまう前に、早い段階で迅速に修正を施すことができる。また、的を絞った実験も可能である。

 たとえば、新しい成長に向けた組織づくりの最善の方法について、意見が割れるのは仕方のないことだ。我々は、コア事業と比較的強い結びつきのあるニュー・グロース・ファクトリーという方法が最善だと考えているが、「スカンク・ワークス」(特命チームによる極秘開発)型組織を支持する向きもいる。また、「それぞれが独立しながら結びついている」組織を非常に器用なリーダーが率いるべきだという主張もあれば、ベンチャー・キャピタルの構造を真似ることを勧める声もある。

 P&Gのニュー・グロース・ファクトリーでは、組織づくりに関して何種類かのアプローチを採用している。その際、ケイパビリティの開発そのものを、新しい成長をもたらすイノベーションとして扱えば、さまざまなアプローチを試みながら、どれが自社にとって最も効果的なのかを学習できる。

 段階的なアプローチは、もう一つの重要な目的にも合致する。それは、ニュー・グロース・ファクトリーが一時しのぎの応急措置ではないという意識を根づかせることである。

 ニュー・グロース・ファクトリーは、次の四半期の業績を急上昇させるものでもなければ、危機のたびに右往左往してしまうコア事業をただちに制御可能にするものでもない。

教訓4 新規事業を評価するための新しいツールをつくる

 期待される市場や発生期の市場の分析が困難なことは、だれもが知るところである。パイロット・ワークショップに参加したプロジェクト・チームの一つについて詳細な追跡調査を行ったところ、P&Gはこの目的に対応する新たなツールを開発する必要があることがわかった。

 P&Gは現在、「取り扱い学習実験」(TLE: transaction learning experiments)を実施している。TLEでは、チームは「少量生産と少量販売」を行い、消費者が実際にどれほど財布のひもを緩めるのかを確認している。これまでにさまざまなチームが、オンラインやショッピング・センター内の売店、パイロット・ショップ、アミューズメント・パーク、さらには自社内の売店や他社のカフェテリアで、各種製品を少量販売してきた。

 P&Gは、プロバイオティック・サプリメント〈アライン〉の市場テスト用にベンチャー・キャピタル型アプローチを考案し、パイロット案件に支配権付きで種子資本を提供している。また、先述したカンザスシティでの〈タイド・ドライ・クリーナーズ〉のパイロット・プロジェクトのように、ビジネスモデルを丸ごとテストしたケースもある。