数回にわたって、想定外の長生きがお金の面で老後の人生に与える影響についてお話ししてきました。それに対処するため、今までの固定観念にとらわれることなく、新しい資産運用の考え方、すなわち「老後であってもむやみに分配金を受け取らず、再投資してしっかり殖やすこと」を実践することで長生きリスクに対処してはどうか、と提案しました。資産運用でしっかり資産を殖やせば長期的には高い確率で長生きリスクに対するヘッジとなり、かつ保険商品などと比べるとコストも相対的に安いからです。
一方で、コストは相対的に高いですが、もっと直接的に長生きリスクに対してヘッジできる保険商品も最近では出てきています。それは「トンチン年金」と呼ばれる新しいタイプの保険商品です。今回は、資産運用以外で長生きリスクに対するヘッジ手法として今、注目を集めている「トンチン年金」について解説したいと思います。
トンチン年金って何?
「トンチン年金」とは17世紀にイタリア人の銀行家であるロレンツォ・トンチが考案した年金の仕組みで、簡単に言えば、加入者から保険料を集めて、生き残っている人でその保険料を山分けする仕組みです。公的年金の賦課方式に近い考え方とも言えるでしょう。この仕組みでは、死亡者は受給できないので不公平感が強いこと、また死亡者が多くなればなるほど生存者の取り分が増えるため、殺人を誘発してしまう可能性もあるといった倫理的問題などもあって、保険の世界では長年“禁じ手”とされてきました。でも、なぜそれが今になって商品化されてきているのでしょうか?
トンチン年金が注目されるワケ
最大の理由は、低金利によって運用から期待できるリターン水準が低下しているからです。保険商品は一般的に運用によるリターンで支払原資を増やすことで、将来の給付を確保していますが、現在の低金利環境では支払原資が十分に増えず、払い込んだ保険料対比で給付額が魅力的な水準にはなっていませんでした。少しきわどい表現をするならば、「トンチン年金」は加入者の死亡により取り分が増えることで低下した運用リターンを補う商品とも言えると思います。このように表現すると抵抗感を持つ方もいるかもしれませんが、公的年金に近い仕組みであることから“私的の公的年金”とも表現できるので、そう聞けば安心する方も多いかもしれませんね。