昨今、「老後破産」や「老後難民」といった言葉が広がり、私の周りでも老後を心配する人たちが増えてきたように思います。実際、公的年金は徐々に実質的に減額されていく見通しですから、危機感を持つのも当然かもしれません。特に老後が視野に入っている50代以上のオヤジの皆さんは、このような危機感から資産運用の必要性を十分認識しているのではないかと思いますし、当連載の読者の中には、現役時代のみならず老後もしっかりと運用をしないといけないと、まだまだやる気満々の人もいるでしょう。

 一方で、50歳を超えてから体力や知力の衰えを痛感している方もいらっしゃると思います。このままどんどん弱っていき「将来、寝たきりや認知症になってしまうのではないか」と漠然とした不安を感じている人も、少なくないでしょう。ただ、認知症といってもいきなり重症になるのではなく、最初は軽度の記憶障害はあるけれども日常生活にはまったく影響しない軽度認知障害(MCI)といった初期症状を経てから徐々に進行していきます。早い段階で気づけば、MCIなら囲碁や将棋などのゲームで思考力を鍛えることによって悪化を防ぐことができるようです。また、認知症になったとしても投薬によって病状の悪化を防げるようにもなってきているようです。でも残念ながら現時点では認知症を治す方法はないため、対策を講じたとしても認知能力の緩やかな低下は避けられないようです。

 認知能力の低下を引き起こす認知症はもとより加齢に伴う認知能力の低下は、人生100年時代とも呼ばれる超長寿社会の日本においては、多くの人にとって避けて通ることはできないと思います。でも気になるのは、加齢や認知症などによる認知能力の低下が、財産管理や資産運用の能力にどの程度影響を与えるのかということではないでしょうか。そこで、今回は認知能力と運用能力の関係性について見ていくことにします。

人間の認知能力と加齢の関係性

 一口に認知能力といっても、実はいくつかの能力から構成されていると考えられています。その主な能力は、(1)処理スピードや(2)作業記憶、そして(3)感情的知性などです。一つ目の処理スピードは、数字や名前、事実を理解し呼び起こすのにかかる時間を表したものであり、一般的には18歳くらいがピークでそこからは加齢とともに落ちていくと言われています。作業記憶は、一度にどのくらい記憶しそれを操作できるかを示したものであり、20 代半ばで最盛期を迎え、35歳前後で頭打ちとなり、その後は徐々に衰えていくようです。もちろん個人差はあるものの、概してこれらの能力は、年をとればとるほど下がる傾向があります。