「社会起業家」という言葉が日本で注目されるようになって、10年ほどが経つ。その間、日本だけでなく世界でも、「社会起業」と呼ばれる分野に大きな成長や変化があった。
その中で、大きな変化のひとつといえるのは、「社会起業3.0」という言葉に代表される「生態系(エコシステム)」を重視する認識が広まったことだ。つまり、ひとりの革新的な起業家を持ち上げるだけではなく、個人でも組織の中にいても、あらゆるプレーヤーが、社会の変化に寄与しうる時代となっている、という事実だ。
ぼくが今回、監修した『社会起業家になりたいと思ったら読む本』は、この大きな変化を体系的に説明している、世界でも新しい種類の本だといえる。
そこで、まず連載第1回では、本書に登場する最初のメッセージ、すべてのプレーヤーに共通するマインドセットとは何か、を紹介したい。本連載を通して、企業にいても、政府にいても、学校やメディアからでも、世の中の変化に加担できること、何より、ひとりの力は大きく、社会変革(ソーシャル・イノベーション)のための「方法」が大きく進化しつつあることを、実感していただけたら幸いだ。

マインドセットが、イノベーションをつくる

 ヒーローたちに、「どうせ」という言葉は、似合わない。「どうせ、がんばっても……」と言うウルトラマンや仮面ライダーは(たぶん)いない。映画のスターや歴史の英雄たちも、苦しみながらも、最後は、粘り強く自らを信じ明るい方に賭けていく。その姿が、ぼくらに勇気を与える。

  そんなヒーローたちと同じように、社会の課題解決に挑む起業家たちは、「解決できっこない」「変わらないよね」という社会の先入観を前提からくつがえす。何よりも、ボーンステインが『社会起業家になりたいと思ったら読む本』(原題:「Social Entrepreneurship –What Everyone Needs to Know」)で伝えるのは、個人のもつ可能性に対する“考え方”の大切さだ。

 そう、この本で描いている大切なこと。それは、ものの見方や考え方(マインドセット)を変えると、結果も変わっていく、ということ。

 インドの「チャイルドライン」では、子どもたちの問題解決に、まさに”当事者”であるストリート・キッズが活躍する。助けられる、とされていた人たちが、自ら創造的な力を発揮し、彼らは社会の「コスト」ではなく、新しいイノベーションをつくりだす「人材」となる(事実、この子どもたちはストリートで起きている状況のことなら、誰よりも詳しい)。これは決して簡単なことではないが、根底に流れる“人間観”の転換でもある。

 お金のない彼らを、可能性のない人たちとして見るのではなく、何かを生み出しうる存在として見ると、彼らに尊厳と可能性が生まれる。

 そんな尊厳の革命は、あちこちで起きている。日本でも、出産後のお母さん向けに、産後の心とからだをメンテナンスするサービスを提供する「マドレボニータ」というNPOがある。

 起業した吉岡マコさんは、自分自身の産後の経験をきっかけに、出産後の母たちに自己効力感を与える場をつくりたいと、事業をスタートした。