係長の喜びもひとしおだったという。野村氏は「指示を着実にこなして成果を上げても長続きしない。自分が苦労したから気持ちも入るし、達成感もある」と話す。

 実はこれこそ、その年にキリンが取り入れた「コーチング」という人材開発手法だ。

 コーチ役となった人が5人の相手を選び、目標達成を支援するもの。面談や電話を1人につき1回30分、約3ヵ月間で計9回行う。

 そこで決して教えることはしない。相手の話を聞き、質問を繰り返して相手の考えを整理するのが役割だからだ。いわば伴走者だ。

 毎年100人のコーチ役が誕生しており、いまや社員約3500人の6割がコーチングに関わっているほどだ。

 しかも上下の関係だけでは収まらない。コーチ役は一般職で4割に上っており、同僚やグループ会社、他部門の上役ともペアになって対話をしているのだ。

 制度の旗振り役である企画部の早坂めぐみV10推進プロジェクト主務も、現場から松沢幸一前社長のコーチ役を務めるほどだ。

 早坂主務は「組織の縦・横・斜めに人脈が広がり、自分の成功を応援してくれる人が増える。仕事の成果も上がる」と言う。

 こうした人材開発手法は他の企業にも広がっている。

 創業家の強力なリーダーシップで日本を代表する電子部品メーカーに成長した村田製作所も同じだ。

 組織風土改革の総仕上げとして、昨年からコーチングを導入し、「指示・命令」型ではなく「認める・任せる」組織へ、180度の転換を狙っている。今年は100人以上の中堅幹部が参加しているため、本気なのだ。

 部署や企業間の接着剤となる対話のチームも生まれている。