「米国の職場は、チームワークより個人プレー」「どんなイヤな人間でも成績さえ良ければ出世できる」。そんなふうに思い込んでいるとしたら、早めにその先入観を捨てたほうが賢明だ。スタンフォード大学のロバート・サットン教授いわく、いまや多くの米国企業で出世の最大の条件は、チームへの貢献。他人の成功をどれだけ手助けすることができたかは、個人プレーで好成績を上げるよりも評価項目として重視されるという。むろん、ただ良い人でいればいいというわけではない。行動しながら学ぶ自省的な人間こそ、この視界不良の時代に、周囲を引っ張ることができる本物のリーダーだとサットン教授は語る。チームワークを忘れつつある日本人にとって、その言葉は重い。
(聞き手/ジャーナリスト、瀧口範子)
Eメールで事態がこじれても
他の対話手段に切り替えられないのは
「行動しながら学べない」証拠
米ビジネスウィーク誌の「ビジネス界に最も影響力を与える10人の教授」に選ばれたこともあるスタンフォード大学の名物教授。組織管理論、組織行動論、イノベーション理論が専門。『あなたの職場のイヤな奴』(講談社刊。原題は「The No Asshole Rule」)は米国でベストセラーに。近著は『いいボス、悪いボス(Good Boss, Bad Boss)』。リーダーシップを人間的な観点から捉えて分析する手法には定評がある。
――景気後退下でのグローバル競争の激化、既存ビジネスの秩序を崩す破壊的イノベーションの加速など、主に先進諸国の企業が置かれた事業環境はいっそう厳しいものになってきている。そうした環境の中で、今もっとも求められている人材の条件とは何であると考えるか。
ひとことで言えば、「行動しながら学ぶ」ことができるタイプの人間だろう。あるいは、日々変化する環境の中で自省的になれる人間と言ってもいい。
たとえば、コミュニケーションひとつとっても、今の時代には多くのチャレンジがある。電話や電子メールは確かに仕事を効率化してくれるが、相手がどんな場所でどんな格好をして仕事をしているのかをつかめないままにやりとりをしていることが大半だ。
グローバル企業ならば、これに文化面、言語面の壁も加わってくる。スムーズなコミュニケーションを実現するのは、実は非常に難しくなっている。果たしてわれわれはこのことをきちんと理解しているのだろうか。
いい例が、電子メールでいったん事がややこしくなっても、そのままメールでやりとりを続けるような社員だ。それは最悪な方法と言っていい。そうした場合、本来は、同じ罠にとらわれ続けるのを避けて、電話やビデオ会議などもっとリッチなコミュニケーションの方法に切り替えるべきなのだ。しかし、そんな機転が利かない人間はたくさんいることだろう。