日銀は、「NAIRU」を明確に言わないだけでなく、インフレ目標に対する実際のインフレ率の「打率」の低さをほとんど改善せずに、インフレ目標の達成期限をぼやかしてしまった。

 だが黒田日銀になってからはその前に比べると、雇用の改善は明らかであり、失業率が「NAIRU」近くになって来た。その結果、ようやく賃金上昇の動きも出てきている。

 黒田日銀のパフォーマンスはそれ以前に比べると格段に良いのに、「NAIRU」を明確に言わないのは、画竜点睛を欠いていて残念である。

金融緩和を続けて
目標に対する「確率」7割に

 最近では金利についても黒田総裁は衒学的(けんがくてき)な言いぶりが目立つ。

 物価目標達成時期の削除を決めた後の、5月10日の講演では「実質金利と自然利子率という2つの言葉が、これから日銀の政策運営で大事になっていく」と発言した。

 為政者がこうした衒学的な用語を使う場合は、一般の人を煙に巻きたい時なので、要注意だ。

 実質金利とは名目金利から予想インフレ率を差し引いたもので、文字通り、物価のの変動を考慮した実質的な金利のことだ。

 経済理論では、実質金利の動向が実体経済に影響を与える。実質金利が下がれば、設備投資は増加し、為替も円安になって輸出も増加する。このため、実質金利が下がると雇用も拡大する。

 一方で自然利子率というのは、スウェーデン経済学者であるヴィクセルが19世紀に言いだした。どういう意味で「自然」なのかというと、完全雇用に対応するような実質金利という意味である。

 金融政策の教科書では、中央銀行は実質金利を自然利子率にするようにしろと書いてある。

 ただし、自然利子率を聞いてわかるという人はほとんどいない。経済学者はわかったように説明するが、自然利子率はいくらなのかと聞くと、ほとんど場合はぐらかす。それではと、別の切り口で完全雇用とはどのくらいの失業率の時なのかと聞いても、口を濁らせる。

 日銀にしても、「NAIRU」も言えないくらいだから完全雇用すらわかっていない。当然、自然利子率がいくらになるのかも言えないはずだ。