今年度、日本企業のCSRは大きく変わるだろうと思っている。これは予測でも期待でもない。認識の問題である。

マイケル・ポーター氏のCSV論文が掲載された「Harvard Business Review2011年6月号」(ダイヤモンド社)。経済的価値と社会的価値を同時に実現する新たなアプローチとして紹介している。

 当連載でも何度かお伝えしているように、世界のCSRの方向性は完全に「成長戦略としてのCSR」に向かっている。その最大の要因は、昨年発表されたマイケル・ポーター論文で提唱されたCSV(Creating Shared Values:共通価値の創造)という概念が世界のビジネスシーンに大きな影響を与えたことだ。CSVという概念が新しいのではない。このような概念が受け入れられたことが新しいのだ。

 例えば、欧州委員会はヨーロッパの経済成長のドライビングフォースとしてCSVを最大化することを謳っている。なんだかんだ言っても欧州市場は大きな市場であることは間違いないし、ヨーロッパはこれまでのCSRの趨勢をリードしてきたといえる。

 そのヨーロッパの(正確には欧州連合の)政策執行機関である欧州委員会がCSVの概念を積極的に受け入れた。この事実が、世界の企業や行政機関に大きな影響を与えることは間違いないのだが、このような状況を正しく認識していれば、(一部を除き)多くの日本企業が推進してきた「慈善型CSR」「本業を通じたCSR(または本業を活かしたCSR)」などといったものを変えていかなければならないことは自明であろう。

 だから今年度は、日本のCSRは大きく変わるのである。認識できてない企業に対しては、CSRを変えなければここ数年のうちにヨーロッパ各国での取引だけでなく、県庁の入札すら参加できなくなるだろうということだけをお伝えしおく。

CSRを企業戦略に組み込むために
社員をどう巻き込むか?

 CSRが企業戦略に組み込まれるということは、CSRはCSR部だけのものではなく、営業から営業企画、宣伝・広報、マーケティング、総務など、メーカーなら調達から工場まであらゆる部署の活動がCSR的視点を必要とするということだが、あいにく日本企業の従業員にはいまだにCSRという言葉すら知らない人間が多い。CSR部がいくら頑張っても、社員のほとんどは自社のCSR活動を知らず、関心も持たないというのが実態だ。こういう状態をなんとかしなければ、「成長戦略としてのCSR」などといっても、それこそ絵に描いた餅である。

 日本企業の中でもガラス卸業のマテックス(東京都豊島区)のように、休日のCSRセミナーに社員の約半分が参加するという意識の高い会社もあるが、従業員が数千人、数万人の大企業では、ここまで社員の意識を高めることは難しい。しかし方策はある。というか、やらなければならない。そのためには工夫も必要だ。

 ソフトバンク・グループ(以下、ソフトバンク)は今年の1月から3月にかけてグループ社員を対象に「社会に貢献するビジネスアイディアコンテスト」を実施した。このコンテストの説明会には100名を超える社員が参加。最終的には219名から312案のアイデアが寄せられた。

ソフトバンクの「社会に貢献するビジネスアイディアコンテスト」の様子。説明会、懇親会ともに100名を超える社員が参加。最終的には200名以上の社員から、300以上のアイデアが寄せられた。