『ヤバい経済学』で世界の話題をかっさらったシカゴ大学の「鬼才」経済学教授スティーヴン・レヴィットとダブナーのコンビによる、柔軟な思考の教科書『0ベース思考』。本書には大量にユニークかつ切れ味鋭い思考の実例が詰まっているが、その中でもヴァン・ヘイレンのデイビッド・リー・ロスが、バンドがツアーをする際の契約に、なぜか「スナックにはm&m'sを含めること(ただし、茶色を入れてはならない)」という条項を入れていたというエピソードがSNSで話題となった(参考記事)。本記事では、本書で唯一取り上げられている日本人、フードファイターの小林尊に関する衝撃的なエピソードを紹介したい。

ゼロベースで、問題を正しくとらえ直す

 どんな問題を解決しようとするときでも、たまたま目についた気になる部分だけにとりくんでいないかどうか、気をつけよう。時間と資源を使い果たしてしまう前に、問題を正しくとらえること、いっそ「正しくとらえ直すこと」が何より肝心だ。

 まさにこれをやってのけた人物がいる。普通の人が考えもしない課題、いや考えたくもない課題にチャレンジした、日本の控えめな大学生だ。

 2000年秋のこと、のちに「コービー」の名で呼ばれるようになる若者が、三重県の四日市大学で経済学を学んでいた。彼は恋人のクミと暮らしていたが、電気代が払えなくてろうそくで明かりをとっていた。二人ともあまり裕福な家の出ではなく、コービーの父は寺に勤め、寺の歴史を案内する仕事をしていた。二人は家賃にも事欠くありさまだった。

 そんな折、優勝者に50万円の賞金を出す大会があると聞きつけたクミが、コービーに内緒で応募ハガキを送った。それはテレビの大食い選手権だった。

 それは一見、とても名案には思えなかった。コービーはそもそも全然大食いじゃなかった。きゃしゃな体つきで身長は173センチほど。それでも胃は丈夫で食欲は旺盛だった。子どものころから出された食事はいつも残さず食べ、姉たちの分まで平らげることもあった。それに体の大きさは世間で言われるほど重要じゃないと、彼はかねがね思っていた。子ども時代の憧れは、軽量ながら優れた技をもち「ウルフ」のあだ名で親しまれた大横綱、千代の富士だった。

 コービーは腹をくくって大食い選手権に出ることにした。彼が勝つには、頭を使ってライバルを出し抜くしか方法はなかった。大学で学んでいたゲーム理論が役立つときがきた。選手権は「ゆでたてのじゃがいも」「ウニ・いくら丼」「ジンギスカン」「ラーメン」の4ラウンドで争われ、各ラウンドの上位者だけが次のラウンドに進む方式だった。

 過去の勝ち抜き方式の大食い大会を研究したコービーは、あることに気がついた。ほとんどの選手が序盤に飛ばしすぎて体力を使い果たして(胃に詰め込みすぎて)しまい、せっかく勝ち進んでも決勝ラウンドで成績を残せずに終わっていたのだ。

 そこで彼は各ラウンドを勝ち抜くのに必要な最小限の量だけ食べて、体力とエネルギーと胃の容量を温存する戦略をとることにした。ものすごく専門的な戦略ってわけじゃないが、それを言うならほかの選手だって専門家でも何でもない。こうして無事決勝ラウンドに進んだコービーは、ラーメンを一気に流しこみ、50万円の賞金を見事勝ちとった。コービーとクミのアパートに明かりが戻った。