筆1本で
コミュニケーションがとれる!

Yumi伊藤さんの本では、被災地で表札を書いたとありますね。

伊藤:はい。一旦、自宅に戻ってから、僕に何が出来るんだろうと考えたんです。それで、三重県の地元の材木屋さんに、材料の提供をしてもらって、工場で表札作って、トラックに大量の表札を積み込んで、仮設住宅のある場所に行ったんです。

そしてまずは、路上に座って、「表札書きます」と。でも、最初は誰も来てくれないんですよね。壁があるんです。

Yumi:最初に路上で、書を書いていたときのようですね。

伊藤:はい、まったく同じ感覚でした。でもしばらくして、おじいさんが書いてほしいと言ってきたんです。それを書いていたら、見ていたほかの人たちも次々に並ぶようになって。ひとりの心をつかめば、壁は一瞬でなくなるんですよね。

どこでだって、筆1本でコミュニケーションが取れるんだ、そう感じました。

Yumi:どのくらいの数をかいたんですか?

伊藤:1年くらい東北を行き来していたので、トータルだと数百件は書きました。自分を必要としてくれるってことも嬉しかったし、僕の書を見て、みんなが会話したり、喜んだりしてくれるって経験がすごくうれしくて。

伊藤潤一さん対談【3】被災地でも、筆1本でコミュケーションが取れた

Yumi:この連載の第1回にもありましたが、伊藤さんが書を始めたきっかけが、自分の作品を観ている人たちが感動したり、感想を言い合ったりするような場を作りたい、でしたよね。

伊藤:はい、まさにそんな経験をさせてもらったんです。だから、このことでまたもや意識が変わって、自分の中でまた新たなスイッチが入りました。日本だけじゃなく、世界にも出よう、と思ったんです。

Yumi:なるほど…。最初が2013年のスイス?

伊藤:はい。モントルーといってジャズフェスティバルで有名な町なんですけど、そこのアートフェスに参加して。その後、台湾では「國立故宮博物院」という博物館で、日本人で初めて国際正会員として認定されました。

Yumi:故宮博物院は、大英博物館とならんで、世界三大博物館のひとつですよね。それは快挙ではないですか?

伊藤:ありがたいですよね。その後2015年の10月にイタリアのミラノ国際博覧会へも参加したんですけど、そこで何か残したいと思って、本にするための原稿を書いていたんです。

 そして、日本に帰国して、その年の12月に本を出版することができたんですが、その本がきっかけで、僕自身、びっくりすることが起きたんです。

(続く)

伊藤潤一さん対談【3】被災地でも、筆1本でコミュケーションが取れた伊藤潤一
1986年生まれ、三重県出身。2007年3月、一人の書家との出逢いをきっかけに、筆と墨を使った表現活動を始める。ストリート時代を経て、現在では創作活動をはじめ、他ジャンルとのコラボレーション、ライブパフォーマンス、トークライブ、個展などカタチに捉われないスタイルで活動を展開。2013年からは活動の舞台を海外にも広げ、フランス、イタリア、スイス、NY、台湾などでも実績があり、中でも台湾では世界三大博物館のひとつ「國立故宮博物院」より、日本人で初めて国際正会員として認定される。2015年開催のイタリア・ミラノ国際博覧会へも参加、2016年には伊勢志摩サミットでの演出も手掛ける。2017年、F1日本GP公式タイトルロゴデザイン担当。和の精神、日本文化の探求を軸に、寺社仏閣への奉納を通し、世界に日本文化と思想を発信している。著書に『路上から世界へ』(リーブル出版)