マリオットやハイアットとは異なる価値を提供する
星野リゾートのブルー・オーシャン戦略

ムーギー:星野リゾートさんが競合と考えているのは、どういった会社になるのでしょうか。

星野:私は最終的には、外資の運営会社だと思っています。ハイアット、マリオット、ヒルトン、スターウッドグループなど、外資のホテル運営会社は様々です。このようなところに比べ、まだまだ私たちの規模は小さいです。ただ、事業として、まさに競合であることは間違いありません。

ムーギー:なるほど。

星野:今日本には、外資の運営会社がたくさん入ってきており、彼らも運営に特化しています。そういう意味では日本の投資家に対して、外資の運営会社も積極的にアプローチしていますし、私たちも外国の投資家と仕事をしています。

ムーギー:日本発で、日本の伝統文化を基軸にした旅館・ホテル運営を、国内外で行う会社は、星野リゾートさん以外にまだ無いですよね。そうすると、海外の競合とは、ある意味、戦いやすいかなと思うんです。

星野:はい、温泉旅館の運営は、それこそ私たちの得意分野です。和食を提供しますし、日本文化を生かした施設ですし、日本の温泉旅館を日本の運営会社が運営するというパッケージは、顧客からしても分かりやすいと思います。

ムーギー:ブランド力が高いですよね。

星野リゾートが切り開く、温泉旅館運営のブルー・オーシャン市場

星野:けれども、逆にそこにとどまっていてはいけないと思っています。温泉旅館の領域では、私たちは強いかもしれません。しかし、どうすれば都市においてもそのような環境をつくれるか。
 また、今は海外での運営拠点を増やしていますが、海外では外国の運営会社の方が強いです。そのような競争が厳しい市場に対して、しっかりと食い込んで運営ができるかどうかが、これからのテーマですね。

温泉の女将さんのマルチタスクは、海外ホテルにはまねできない?

ムーギー:なるほど、日本だと圧倒的に、星野リゾートのブランドが、日本の伝統文化とマッチして強いわけですね。けれども、例えばバリで運営するとなると、バリは温泉旅館ではない。日本文化色が強いだけに、海外に出ると逆にそのイメージが、足かせとなったりしますか。

星野:そうですね、足かせにならないとは言えません。ただ、私たちは真似される競争力と真似されない競争力があると思っています。よくマイケル・ポーターが言っている、競合相手にトレードオフを迫る競争力は何だろうか、ということをずっと考え続けてきました。
 基本的に星野リゾートの強さは、同じ旅館や同じホテルを運営した時の、収益率の差なのです。オーナーにとって、私たちの方が高い収益率を出せますと。ここがポイントです。

ムーギー:なぜ高い収益率を達成できるんでしょうか。

星野:私たちは90年代から長い間、いずれ外資の運営会社が競争相手になると言い続けてきました。彼らと同じ運営をしていては、勝てないのです。なぜならば、外資の運営会社は規模が大きく、それを生かした運営手法をとっている。
 だから、私たちはそれとは全く違った運営方法を考えて、編み出しました。それが結果的に収益率の高い宿泊施設運営に繋がっています。

ムーギー:その運営方法をもう少し詳しく教えてください。

星野:私たちの手法の要は、スタッフの働き方にあります。施設にいるスタッフは、マルチタスクで動けるようにしています。つまり、フロントスタッフがハウスキーピングもするし、ハウスキーピングスタッフが調理もするし、調理をしている人がレストランサービスも行う。それはヘルプという概念ではなく、全員が全ての仕事を担えるようにするという考え方です。こうすることで、手待ち時間を減らすことができるのです。
 これは、日本の製造業の工場と同じ発想です。日本の製造業がなぜ生産性が高いのかというと、手待ち時間を減らしたからなのです。

ムーギー:御社のスタッフは、専門職ではないんですね。

星野:この手待ち時間を減らし、マルチタスクで動くことができるサービスチームで運営をしていることが、私たちの競争力です。しかし、このサービスチームの仕組みは、外資の運営会社には真似できないことだと思います。

ムーギー:それはまたなぜでしょう?

星野:専門職の人を、世界中に膨大な数で抱えているからです。今となっては、専門職の人材を、マルチタスクを担える人材に変えるコストが、その移行によって得られるメリットよりも、はるかに高くなってしまうのです。

ムーギー:トレーニングコストの方が高くなっちゃう、ということですか。

星野:そうです、膨大なコストになる。トレードオフが効いている分野であると考えています。サービスチームに代表されるこの運営手法が、競合との一番の違いです。
 私たちは、バリ島で日本旅館をつくるわけにはいかない。けれども、星のやバリは、実は私たちが運営する国内の温泉旅館と全く同じ方法で運営しています。
 お客様から見ると、施設としては全く異なります。星のやバリは、バリ文化を反映した、バリのホテルです。しかし、そこで働く私たちのスタッフはマルチタスクで動きます。全員が全ての仕事をできるようにしようと、常にトレーニングをしています。ここでも、手待ち時間の無い運営ができている。だから高いリターンが出るわけです。