競合と同じことをやる羽目になる御用聞きでは
レッド・オーシャンに飲まれるだけ
ムーギー:運営の方法が、特殊だと仰っていましたが、何が違うのでしょう。
星野:私は旅館を運営する際に、中長期的な視点で、その案件の競争力向上を考えるのが、運営会社の本当の責任だと思っています。
ムーギー:オーナーとっての価値をいかに上げるのかという視点ですね。短期ではなく、長期的な価値を高める運営ができるかどうかが大切だと。
星野:そうです。多くの運営会社は、「日々運営をして、今年の予算を達成する」という視点が多く、どちらかと言えば短期的に物事を見ていると思います。ただ、オーナーにとって、所有している施設は資産なので、価値を維持し続けるためには長期的に戦略を考えなければならなりません。その戦略をきちんと主張するのが、運営会社の責任ですし、星野リゾートの特徴だと思っています。
ムーギー:今お聞きしていると、御社のお客さんは運営施設を所有するオーナーという理解でよいでしょうか。
星野:もちろんご宿泊してくださる方々は、大切なお客様です。しかしおっしゃる通り、運営に特化している私たちにとっては、それに加えて、オーナーも大切なお客様です。
ムーギー:そして時には、オーナーのやりたいことでも、「それは良くない」と言って断ると。
星野:オーナーが保有する資産の運営会社は、単なる御用聞きになってはいけません。ホテル運営のプロとして、施設の長期的な競争力に繋がらないことは、きちんと伝える。それができる運営会社になる必要があると思っています。加えて、合意したことをきちんと実行できる力が肝心です。
ムーギー:施設を所有するオーナーの属性なのですが、どういったところがあるんですか。
星野:「地域の魅力を再発見できる、心地よい和にこだわった上質な温泉旅館」というコンセプトでブランド展開をしている界は、星野リゾート・リートが所有している施設が多いです。トマムは海外の企業が所有者ですし、青森屋は、国内の投資家が所有しています。施設の大きさと所有者に何らかの関係性があるわけではなく、さまざまですね。
ムーギー:すると、御社の顧客であるオーナーは、リートと不動産会社が中心となるわけですね。
星野:そうです。
ムーギー:そうすると、オーナーは不動産開発のプロですよね。
星野:もちろんです。
ムーギー:それを伺って、すごいなと思ったんです。オーナーと言っても、不動産投資や開発の素人で、お金が余っている人だから、星野リゾートさんの知見に、強く反対したりせず、運営しやすいんだろうなと思っていました(笑)けれども、お伺いしていると、知見のあるプロフェッショナルな人たちがオーナーだということですね。
星野:そうです。トマムも青森屋も、元々はゴールドマンサックスさんが所有していました。専門家がたくさんいる集団で、優秀な投資家です。そういう人たちに対して、運営という立場で中長期的な戦略を、きちんと主張できなければなりません。
オーナーは施設を所有し続けることもあれば、途中で売却することもあります。売る時の値段を最高にするためは、高く買う人がいなければなりません。高く買う人は、これから競争力が落ちるものは買いません。これからもさらに上がっていくと思うから、より高額なお金を出すわけです。
つまり中長期的な視点で、競争力がある案件に育てていくことは、実はオーナーにとって最大のメリットがあるわけです。そこをしっかりと説明し実行できるかどうかが、運営会社の本当の実力だと思っています。