現地スタッフによる「地元の魅力発信」を、運営に「加える」
――バリ島でピニャ・コラーダを絶対に出さないワケ
星野:マルチタスクで働ける人材を育成するだけでなく、商品の魅力開発までを現地で行なっています。魅力開発というのは、その地域の良さを生かした、新しい料理、新しいサービスを提案することです。
ムーギー:具体的には、どういったことをするのでしょう?
星野:例えば、バリにある外資やナショナルブランドのホテルの多くは、プールサイドのドリンクメニューに、ピニャ・コラーダがあります。ただ、私たちが採用している現地のスタッフは、ピニャ・コラーダを飲んだことがありません。
それよりも、バリ・ヒンドゥの文化に根差した、気候にあった良いドリンクがたくさんあります。そういったものを提供することで、お客さまにその土地ならではの体験を楽しんでもらえるように提案します。
ムーギー:確かに旅行では、そのローカル文化を体験したい思いがありますよね。でも、実際に行って見ると、どこも同じようなものを提供してしまっている。
星野:現地の文化を生かした発想ができるのは私ではなく、やはり現地のスタッフです。彼ら彼女らが自分たちで発想し、意思決定をして、お客様に提案するのが一番良いと考えています。
ムーギー:現地の権限が大きいんですね。
星野:つまり、星のやバリは、バリ・ヒンドゥの文化を反映したリゾートですが、そこにたどり着く手法は我々が日本旅館の運営で培ったものです。
現地スタッフはマルチタスクで働き、自分たちで魅力も開発する。例えば、このやり方を箱根で取り組めば、たまたま温泉旅館になるし、バリで取り組むと、バリ文化を反映したリゾートになる。それが私たちの運営の仕方です。
日本旅館からスタートしたこの運営の手法を、世界に展開していきたい。そう思っています。
ムーギー:御社の競争力は、日本の旅館発の運営手法だと。
星野:そうです、これを日本旅館メソッドと呼んでいます。
ムーギー:その手法を使って運営する海外の施設も、日本並みにうまくいっているんでしょうか。
星野:私たちが最初に海外で運営したタヒチは、劇的に業績が改善しています。バリは2017年1月にオープンしたのですが、業績が良くなってきた時に、アグン山が噴火しました。その影響でいったん業績が落ち、その後の数回の噴火で少し安定しない状況が続きましたが、現在はとても良くなって来ています。
100室以下のラグジュアリー施設は、海外運営会社の「非顧客層」
ムーギー:運営手法の他に、御社が他の運営会社と異なる部分はありますか。
星野:運営規模が違いますね。一つのホテルの収益を考えた時に、分業型が向いているのは300室~400室と比較的大規模なところです。ですから、競合の運営会社は、その規模のホテルを運営していることが多い。
ムーギー:御社の場合はどうなんですか。
星野:100室以下の比較的小さな規模を運営することが多いです。この規模は、分業型で運営すると、どうしても手待ち時間が増えてしまって、効率が悪い。だから、外資系ホテルなどの同業他社は2~300室を好むのです。小さなもの、例えば日本の地方の温泉旅館には、参入しづらいと思います。その空白になっている市場こそが、私たちが1番の競争力を発揮できる市場だと思います。
ムーギー:つまり他の大手競合は、200室以上の規模が大きいラグジュアリー施設の運営がメインだと。御社はその市場は、主戦場だと考えていない。100室以下の中小のラグジュアリー施設の運営で、最大限力を発揮できるようにメリハリをつけている。そしてホテルにつきものの、世界中で同様に提供されるお決まりサービスの替わりに、現地の魅力の発信に注力する。結果、この市場を得意とするのは、星野リゾートしか無いだろうとなっている。
リゾート不動産運用業界に対して、御社が切り開いたブルー・オーシャンですね!