「受精してはいけない精子」も
顕微授精されてしまう!

「先体(精子頭部の前半部を覆う袋状の小器官のこと)の中には、卵子に侵入する際に必要となる酵素が入っています。その酵素が卵子と接着するときに放出され、卵子への侵入が可能になるのです。この一連のプロセスを『先体反応』といいます。受精するために精子が卵子に侵入するには、このプロセスが必須なのです。顕微授精は人工的に針で卵子に穴を開けて精子を注入するため、先体反応のプロセスをパスできますが、それによって本来受精できない精子、もしくは受精してはいけない精子の卵子への侵入を可能にしてしまうというリスクもあるのです」(黒田医師、以下同)

 多くの不妊治療クリニックでは、顕微授精に用いる1匹の精子を選別する基準を「頭部の外周形状が楕円で、きちんと泳いでいる精子」と定めており、この条件をクリアした精子を「正常」と判定している。

「しかし、その中にも『先体』の異常や、その下に穴が開いているものがあり、これを『頭部空胞化精子』といいます。また『DNA断片化陽性精子』(DNAが損傷している精子)など、機能異常を有する精子が混在しているのも事実です。『元気に泳いでいる』という見かけだけでは、隠れている精子機能の異常を把握できません。まさに『どのような運動精子を顕微授精に用いるかが、不妊治療の安全性に直結する』ということです」

頭部に空胞のある精子。元気に泳いでいても、それだけで「正常」とは言えないのである

 精子頭部の中に空胞がある場合、その部分はDNAの密度が低いことが明らかになっている。ただし現在、頭部空胞とDNA損傷の因果関係はまだわかっていない。

「多くの不妊治療クリニックにおける顕微授精の実施は、『頭部の形態が良い運動精子ならば良好精子である』というわかりやすい指標をもとに、国家資格を持つ医師ではなく、認定資格である胚培養士の判断に任されています。本来、医療行為である顕微授精の業務に、国家資格のない胚培養士が携わっていることは、責任の所在を明確にする必要性が生じた際には大きな問題になるのではないでしょうか。生殖補助医療業界全体として、根本的に見直すことも急務であると考えています」