世界で一番不妊治療が行われているにもかかわらず、その治療による出産率が世界最下位という残念な状況にある日本。これまでは女性側の問題ばかりがクローズアップされてきたが、ここ数年、注目されてきたのが男性側の問題、つまり「精子の異常」である。(ジャーナリスト 草薙厚子)
不妊の原因の50%は男性側に!
「精子の異常」が注目されている
最近、妊活ブームに伴って、テレビや新聞で「男性不妊」についての番組や記事が取り上げられるようになり、「精子」が注目されている。数年前までは、不妊といえば卵子ばかりに目が向けられ、精子という言葉を耳にしたり、目にすることさえほとんどなかった。
最初に「不妊症」の定義を説明しよう。妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(一般的には1年間)妊娠しない場合をいう。近年、妊娠しないといって、20代から不妊クリニックを受診する夫婦も増えている。
日本で2016年に行われた体外受精は44万7790件で、出生児の約18人に1人に当たる5万4110人が誕生。件数も出生数も過去最多を更新した。日本において最初に体外受精児が誕生したのは1983年、東北大でのことである。それから24年で、合計約53万6710人が誕生している。
しかし、日本の不妊治療には、大きな問題がありそうだ。というのも、不妊治療を受けている患者数が世界第1位にもかかわらず、その治療による出産率が世界最下位。つまり、世界で「一番不妊治療が行われている国」であるにもかかわらず、「一番出産できない国」なのだ。
日本の不妊治療の成績がなぜ振るわないのか。原因の1つには、「精子の異常」に対する認識の低さがある。一般的に不妊原因は女性側にあると思われがちだが、実は約半数を男性側が占める。2017年のWHO(世界保健機関)の報告では、男性不妊が24%、男女両方の不妊が24%であり、不妊の約半数に当たる48%が男性側に何らかの原因があることがわかる。
最近になってようやく、「精子の品質が重要だ」ということが注目されつつある。『本当は怖い不妊治療』(SB新書)の監修者でもある産婦人科医で、30年以上にわたりヒト精子の研究を専攻してきた臨床精子学の第一人者である黒田優佳子医師に「男性不妊」の現状について聞いてみた。