自分に向いている3本の指
「あんたが悪いと指さした
下の三本は自分を向いている」
この標語は温泉でも有名な鳥取県三朝町(みささちょう)にある天台宗の古刹、慈覚大師円仁ゆかりの三佛寺(さんぶつじ)境内の自動販売機に掲げられていたそうです。自販機と掲示板が一緒になっているものを初めて見ましたが、なかなか斬新な発想です。
「日本一危険な国宝」
非難する相手に人差し指を突きつけると、折り曲げられた中指、薬指、小指の3本は、どうしても自分の方を向いてしまうものです。
実際にやってみると、人を指している指は自分の目からよく見えますが、自分を指している3本の指は意識しないので視界にはあまり入って来ません。
この標語が言わんとするように、この3本の指の存在(自分の悪い部分)に気づかず、怒りに任せて相手を一方的に非難することがありませんか? 質問中に指差されて激怒した大臣もいましたが、ふつうは相手の怒りも増幅するものです。
『法句経(ほっくきょう)』の中に、有名な言葉があります。
実にこの世においては、
怨みに報いるに怨みを以てしたならば、
ついに怨みの息むことがない。
怨みをすててこそ息む。
これは永遠の真理である
中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』(岩波文庫)
結局、「自分にも悪い部分はある」という考えを持たなければ、双方の憎しみは増幅するばかりなのです。
強敵がひとを成長させる
「かたうど(味方)よりも強敵が
人をばよくなしける(成長させる)なり
日蓮聖人」
2つ目の標語は、連載29回と30回でも取り上げさせて頂いた東京・原宿にある日蓮宗のお寺のものです。
これは、日蓮の御遺文「種々御振舞御書(しゅじゅおふるまいごしょ)」の中の文言です。日蓮が指摘されているように、強敵(恨んでいたり苦手な相手)は自分自身を成長させてくれる存在でもあります。
一寸の虫にも五分の魂ということわざもありますが、どんなに間違っている、酷いと思うような相手にも、何らかの理はあるものなのです。
このような認識を持つためには、先の”3本の指 ”のたとえを思い出して、常に冷静に、自分自身の姿を見つめることが必要となります。
この世には完全な悪など存在しません。自分の心の中で勝手に完全な悪をつくりあげてしまい、相手を徹底的に恨んでしまうと、自分自身が成長できるきっかけを自ら潰してしまうことになります
(解説/浄土真宗本願寺派僧侶 江田智昭)