「初心」の忘れ物
こちらは北九州市にあるお寺のご住職の投稿です。
自動車にくっつける「初心者マーク」が一緒に掲げられています。要は、お寺の前にこれが落ちていました、というお知らせなのですが、それを掲示板の言葉として、他の人のこころにも響くようにしているところが一味違います。
みなさんも自分の「初心」をどこかに落とされてはいませんか?
若い頃は「何かを成し遂げよう!」といった気持ちで満ち溢れていたのではないでしょうか。
初心という言葉を初めて使ったのは世阿弥といわれています。『花鏡(かきょう)』という伝書に「初心忘るべからず」と書き残しました。それも三度繰り返す形で。曰く「是非の」「時々の」「老後の」と。これは、人生にはいくつもの初心があるということです。若いとき、人生の時々で、そして老後においても。
以前ご紹介したスティーブ・ジョブズさんも、「仏教には初心(beginner's mind)という言葉がある。初心を持つのはすばらしいことだ」と言っています。
あなたの初心をぜひ思い出してみてください。
成功の反対は「やらないこと」
2つ目の標語は、谷中にある天台宗のお寺の掲示板にあったものです。
「成功の反対は失敗ではなく『やらないこと』」
サッカー日本女子代表「なでしこジャパン」の元監督、佐々木則夫さんの言葉です。
できないことの言い訳を延々として、何もしない人がどの職場にもいるものです。確かに何もしなければ失敗もしないので、本人は傷つかず、立場やプライドは守られるかもしれません。要領よく立ち回る人によく見られる傾向です。
しかし、それは正しい行いなのでしょうか。仏典『法句経』は仏陀の教えを短い言葉で伝えたものですが、その中にこうあります。
「善く説かれたことばでも、それを実践しない人には、実りはない」(『法句経』51)
実りあるように、世阿弥の口伝に記された「初心」を思い出して、行動してみましょう。
(解説/浄土真宗本願寺派僧侶 江田智昭)