先進企業が実践している
クリエイティブオフィスの基本モデル

 百嶋上席研究員は、クリエイティブオフィスは次の具体原則を満たすものであるべきだという。

(1)企業内ソーシャル・キャピタルを育む視点
(2)多様性を尊重する視点
(3)地域コミュニティと共生する視点
(4)安全性に配慮する視点
(5)従業員の健康に配慮する視点

 (1)のソーシャル・キャピタルとは、組織の構成員間の信頼感や人的ネットワークを指し、組織を円滑に機能させる”見えざる資本”であるといわれる。

「オフィス空間の意義は人と人との直接のコミュニケーションの結果、画期的なアイデアやイノベーションが生まれることにあります。すなわち、企業内で従業員間のつながりを促進することは、コラボレーションを活性化させ、イノベーションの創出に役立ちます」(百嶋上席研究員)

 そのための仕掛けとしては、カフェやライブラリー、開放的な内階段といった休憩・共用スペースが考えられるという。「これらを効果的に設置することで、偶発的な出会いやインフォーマルなコミュニケーションの喚起が期待できます」と百嶋上席研究員はアドバイスする。

「執務フロアのレイアウトを工夫するやり方もあります。例えば、製品・サービスの企画開発などの視点から、関連性のある部署やグループ会社を同一のオフィスに入居させ、ワンフロアに集結させたり近接するフロアに配置したりすることで、コラボレーションの活性化を促すのです」(百嶋上席研究員)

 一方、(2)の「多様性を尊重する視点」とは、従業員の多様なニーズを尊重し、それぞれにとって働きやすい場の選択肢を最大限に提供することだ。その目的は、個々の従業員の能力や創造性を最大限に引き出すことにある。

「取り組んでいる業務内容、性格特性、その時々の気分などによって、集中できる個別スペースで仕事に没頭したい従業員もいれば、休憩・共用スペースで大勢の仲間とコミュニケーションを取ったほうが仕事の効率が上がる従業員もいるでしょう。また、普段はひとりで仕事をしていても、ほかの従業員と意見交換をしたいときもあるでしょうし、その逆も然りです。このような様々なニーズに対応できるオフィス空間を、なるべく多く設けるのが望ましいといえます」(百嶋上席研究員)

(3)の「地域コミュニティと共生する視点」とは、企業が拠点を設けることで周辺地域にもたらす「外部不経済」を抑制・解消する一方で、構築した拠点における事業活動を通じて、地域活性化や社会課題解決などの「外部経済効果」を最大限に引き出すという意味だ。

「不動産は外部性を持つため、社会性に配慮した利活用が欠かせません。良き企業市民として、地域社会の信頼を勝ち取るためには、まず、自然環境や景観に配慮した適切な不動産管理を行うことが不可欠です」(百嶋上席研究員)

 日本でも最近、そうしたCSR(企業の社会的責任)経営に基づく拠点づくりを実践する企業が一部で見られる。例えば「近隣への圧迫感を軽減し、地域社会の景観に調和させるべく、新設の研究所を低層の建物とした事例が散見されます」と百嶋上席研究員は言う。

 また、東日本大震災以降、従業員の安全確保やBCP(事業継続計画)の遂行など、(4)の安全性に配慮する視点を備えたオフィスづくりが、これまでより強く意識されるようになったという。さらに(5)の従業員の健康に配慮する視点については、「従業員の活力・働きがいや生産性の向上をもたらし、結果的に企業価値向上につながります」と百嶋上席研究員は話す。

「米国では、入居者の健康や快適性に焦点を当てて建物を評価するWELL認証制度が2014年からスタートしています。現時点では、日本のオフィスビルでの登録・認証件数は少ないですが、今後、日本企業の間で従業員の健康に配慮する視点が根付いてくれば、認証取得のさらなる動きが出てくるのではないでしょうか」(百嶋上席研究員)