男性の場合、1日当たりの飲酒量がビール中瓶換算で半分から1本以内の人の死亡率(相対危険度)が最も低く、それを超えると飲酒量に応じ上がっていく。毎日ビールを中瓶3本以上飲む人の死亡率は、飲まない人の1.4倍だ。

 では、ちょっとだけお酒を飲んでいる人の死亡率は、なぜ少し下がるのか。

 「心筋梗塞」や「脳梗塞」といった循環器系の病気(虚血性)が、カギを握っているとみられている。

 欧米人に多い心筋梗塞、日本人に多い脳梗塞などによる死亡率が下がることで、全体の死亡率を押し下げているというのである。

 さらに踏み込んでいこう。では、なぜ、心筋梗塞や脳梗塞の発症率が下がるのか。

 そこは、まだきちんと検証されていないのが実際のところだ。アルコールには、「血液がサラサラになり、血の塊である血栓ができにくくなる抗凝固作用がある」、あるいは「動脈硬化などにつながる血液中のコレステロールを回収する善玉コレステロール(HDL)を増やす」といった指摘があるが、これらにはまだ異論がある。

 コンセンサスとなっているのは「アルコールは血管を拡張させる」までのようだ。

 「酒を飲むと緊張が緩み、血管が拡張し、血圧が一時的に下がる。それが心筋梗塞など血管障害のリスクを減らしている可能性はある」(浅部伸一・アッヴィ合同会社開発本部消化器領域臨床開発部部長、医師)のである。

 Jカーブは、糖尿病でも指摘されることがある。例えば、アルコールがインスリンの感受性を高めるという説もあるが、要注意だ。「習慣的に酒を飲む人には脂肪肝のリスクがあり、脂肪肝は糖尿病のリスクを高めることを忘れてはいけない」(浅部氏)。

 くだんのJカーブについて、別のアプローチから分析を加えるのは、『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』の著者である佐々木敏・東京大学大学院医学系教授だ。

 先の図のJカーブの縦軸は、「相対危険度」となっている。

 相対危険とは、飲酒する人がその病気にかかる発症率を、飲酒習慣のない人がその病気にかかる発症率で割った値だ。

 だが、本当に知りたいのは、飲酒習慣があることによって発生する病人の数だろう。こちらの方は引き算で求められ、「寄与危険」と呼ぶ。

 佐々木教授が示した数字は下右下図の通りだ。飲酒習慣のない1万人が1日当たり日本酒2合の飲酒習慣を持ったと仮定すると、心筋梗塞での予防効果は、飲酒によるがんの発症率の増加などによって相殺され、病気になる人は8.6人増えると予測されるのである。元気でいたいと願うならば、節酒は避けて通れない。