過去の遺恨と創業家の保身
根底に流れる感情的な対立

 そもそも、TOBの期間中にも、伊藤忠繊維部門のトップである小関秀一専務執行役員とデサントの石本社長は4回にわたって水面下で会談。今後の経営体制について話し合っている。

 この過程で、現在デサント側が6人、伊藤忠側が2人、社外が2人野合計10人の取締役を、伊藤忠は6人に減らした上で、デサント側2人、伊藤忠側2人、社外2人にするよう求めていた。

 それに対しデサントは、取締役を5人にした上で、自社から1人、社外を4人にと主張。自社の1人は石本社長で、伊藤忠からは取締役を受け入れない方針を示したもようで折り合わず、2月28日に協議を打ち切っている。

 しかし、こうした役員の選任に関しては本来、総会マターの話。表向き伊藤忠は「韓国に依存しすぎている経営戦略を見直す」などと主張をしているものの、株主にとって最も重要な「経営戦略の青写真」を示すといったことはなされていない。

 それはデサントにしても同じ。しかも「少数株主保護」を主張してTOBに反対しているものの、特定の大株主である伊藤忠とだけ水面下で協議を続けるなど、言葉と行動が矛盾している。

 つまり今回のTOBの本質は、デサントの企業価値を向上させることではなく、デサントの経営権を盾にした、過去の「遺恨」と創業家の「保身」をめぐる対立なのだ。しかもデサントの従業員が反対の署名活動を実施して9割の署名を得るなどしており、TOBが成立したとしても両社の関係改善は一筋縄ではいきそうにない。

 こうした中、TOBの買い付け期限は今日(3月14日)期限を迎える。デサントの石本社長が臨時株主総会の開催を飲むのか、それとも定時株主総会でプロキシーファイト(委任状争奪戦)までもつれ込むのか。デサントは伊藤忠の繊維事業にとって重要な“ピース”であるだけに、こうした対立の長期化は双方にデメリットしかもたらさないと言わざるを得ない。