一律2%割引よりも
50人に1人が無料の方が効果的

 ちなみに当時、全日空の国内線は、月間どれくらいの乗客数だったのか?年間乗客数を見ると、2002年は4579万人となっている。当時、自動発券機でチケットを受け取る人はそれほど多くはなかっただろうから、仮にこの半分弱くらいということで年間約2000万人としよう。すると1日あたりの人数は約5万5000人くらいだ。50人に1人が無料になるということは55,000÷50=1,100、つまり1日に1100人が当たるということになる。

 ということは、「抽選に当たって航空券が無料になり、数万円戻ってきた」という光景が全国の空港ロビーで毎日1100回繰り広げられ、しかもそれが76日間にわたって続いたということになるのだ。このインパクトはかなり大きいのではないだろうか。

 それに「1100人が無料になった」という事実は、当たった1100人だけではなく、その何倍もの人が、周りでその光景を目の当たりにしているわけだから、「次は自分も当たるかもしれない!」という希望が出てくるだろう。行動経済学では「利用可能性ヒューリスティック」という言葉があるが、これは身近に起こったことや目の当たりにしたことは起きる確率が高くなると思い込む錯覚のことをいう。この「楽乗キャッシュバックキャンペーン」はまさに、この利用可能性ヒューリスティックを活用した手法なのだ。

 50人に1人が無料ということは、全乗客に当てはめたとしたらわずか2%の割引にしかならない。全ての乗客に対して2%の割引を実施したところで、それほど喜んではもらえないだろう。ところが50人に1人の割合で無料になるというインパクトは、かなり強いものがある。

 前述の洋服を買いに行った場合のお店と同様、50人に1人をその場で抽選して無料とするのは店にとっては2%の割引に過ぎず、隣の店でやっている全品3%割引の方が原資は大きいのだが、顧客の感じ方が全く違ってくるため、無料キャンペーンの方が魅力的に見える。

 結果としてこの「楽乗キャッシュバックキャンペーン」が生み出した効果は大きく、当時、「米国同時多発テロ」等の影響で旅行客が一時的に大きく落ち込んだ2001年10月以降の旅客減をカバーする効果があったとされる。

 冷静に考えると、当たる確率が2%のくじを引くよりも、確実に2%の割引をしてもらった方が全ての顧客にとっては等しく有利なはずなのだが、そうはならないのが人間の心の面白いところだ。