8月7日に、ユニバーサルに続き、ワーナーからも“ハイレゾCD”のリリースが始まった。「ハイレゾCD 名盤コレクション」として、全29タイトルを限定生産する企画だ。価格は2800円(税抜)から。

ハイレゾCD

 ハイレゾCDについては、アスキーでも何度か記事にしている。少し変わった仕様の音楽CDで、普通のCDプレーヤーで再生すると、44.1kHz/16bitの“CD音源”。MQA対応DACに通すと、最大352.4kHz/24bitの“ハイレゾ音源”として認識される。MQA-CDとも呼ばれるが、ハイレゾCDの場合、記録してあるデータだけでなく、物理メディアも「UHQCD」というピットの形状が整い、ドライブ内での乱反射が少ないディスクを採用している。

ハイレゾCD
MQA-CDとUHQCDの組み合わせがハイレゾCDだ。

原産地表記が明記されている

 ユニバーサルのハイレゾCDでは、アナログマスターを一度DSD化し、これを352.4kHz/24bitのPCMに変換したうえでMQA化していた。ワーナーの場合は、アルバムごとに、素性が異なるマスターを使い、最終的なフォーマットも44.1kHz/24bit、88.2kHz/24bit、176.4kHz/24bitのどれかになる(96kHzや192kHzのマスターが88.2kHzや176.4kHzになるのは、48kHz系ではなくCDと同じ44.1kHz系になるため)。

ハイレゾCD

 過去記事で書いたように、ほとんどが、過去にSACDやDVD-Audioを作るため、オリジナルのアナログマスターをハイレゾ化したものだが、この企画に合わせて、新たにハイレゾ化したものや、デジタルMTRで記録した音源をハイレゾ化したものも含まれている。

 また、一部の音源はMQA化する際にアプコン処理が行われている。具体的には、アナログテープから96kHz/24bitで取り込んだデジタルマスターを、176.4kHz/24bitのMQAに変換して提供するといったものだ。

ハイレゾCD
グリーンのレーベル面に注目。UHQCD仕様のディスクだ。

 この方法が最良かは、意見が分かれる部分かもしれない。とはいえ、単純に「176.4kHz/24bitのハイレゾCD」とだけ記載するのではなく、元の音源は何で、どのマスターをどのフォーマットでデジタル化したかの情報がしっかり公表されている点は良心的だ。食品の「原産地表記」ではないが、どのような過程を経てできたアルバムなのかが分かり、真面目な姿勢と言える。

4種類のアプローチを楽しめる、中森明菜ベスト盤

 編集部に、届いた試聴用のアルバムは4タイトル。MYTEK Digitalの「Brooklyn DAC+」を使い、MQAデコード機能をオン/オフしながら聴いてみた。ハイレゾCDのディスクは44.1kHz/16bitの品質で良ければ通常のCDプレーヤーでも再生できる。ハイレゾ品質で再生したい場合は、CDプレーヤーの同軸デジタル/光デジタル出力やBlu-ray DiscプレーヤーのHDMI出力でMQA対応DACにデジタル出力することが必要だ。また、リッピングしてMQA対応ポータブルプレーヤーや、PC+MQA対応USB DACの組み合わせで聴くこともできる。

ハイレゾCD
黒い筐体がBrooklyn DAC+

試聴環境:スピーカー:ELAC VELA BS403.2、アンプ:Aura vita、DAC:MYTEK Brooklyn DAC+、プレーヤー:Marantz SA-7S1。再生時は、SA-7S1から同軸デジタル出力し、MQAオン/オフともD/A処理はBrooklyn DAC+で実施。

 まずは、中森明菜『ベスト・コレクション ~ラブ・ソングス&ポップ・ソングス~』(WPCL-13071/2)と、中森明菜『BEST』(WPCL-13073)から。

 両方のアルバムに収録されているヒット曲「北ウィング」を聞いたが、なかなか面白い。三者三様(四者四様?)の聴こえ方がするのだ。29タイトルしかない中に、なぜ収録楽曲がかぶっている2枚のアルバムを入れたのか疑問に思っていたが、その違いを聞けば納得だ。

 このうちBESTのほうは、1986年にリリースしたアナログ盤のマスターテープを96kHz/24bitにデジタル化したものだ。オーソドックスなバランスで、従来から販売されているCDに近い出音と言える。低域にエネルギー感があり、全体にハッキリとしている。ベスト・コレクションも、同様にアナログマスターを96kHz/24bitでデジタル化しているが、ミックス処理を後年、やり直したものとなる。ボーカルをたっぷりと聞かせるバランスで、BESTの音とは大きく異なる。声のディティールが細かく再現され、ちょっとハスキーな中森明菜の声の質感や歌い方の抑揚が生々しく伝わってくる。

 少し雑だが、BESTのほうはデジタル的、ベスト・コレクションはアナログ的な鳴りをする。アナログマスターの制作年代は、ベストコレクションのほうがだいぶ後になるが、昔、アナログレコードで聴いたことがあるような、レトロな感じの仕上がりなのだ。例えば、リズム帯など、アタックのある音に注目すると、BESTは直接音をソリッドかつストレートに出しているが、ベストセレクションはこれよりもフォーカスはややあまく、逆に自然さを重視している印象がある。

 MQAのデコードをオンオフした際の違いも面白い。BESTの44.1kHzは低域がガツンとしていて力感があるが、88.2kHzで聴くとそこが中高域となじんだ、より自然な聴こえになる。中域の分離感が上がり、埋もれていた楽器の音などを聞き分けやすくなるし、弱い音もよく拾うせいか、音場が少し広がった印象になる。ベスト・コレクションの44.1kHzはレコード的な聴こえ方と書いたが、ボーカルなど中域の厚さがある一方で、帯域は少しナロウだ。これが88.2kHzにすると、低域・高域のレンジ感が広がり、リバーブ感も豊かになって、より広い空間に包まれる印象を持った。

 4パターンのうち、キャラクターの差が顕著に出るのは44.1kHzのほうだ。88.2kHzにするとお互いが歩み寄ったようなナチュラルさ、広がり感が出た。もちろん、ミックスの違いによる聴こえの差は支配的なのだが、ハイレゾ音源ならではの空間の広さ、S/N感の高さ、分離の良さを感じるようになる。声の聴こえ方、楽器の出方は、曲の印象を変える要素になる。結果、4通りの表現によって曲想の広がりを感じられた。

思い出のある楽曲が、最新の音質でよみがえる

 次にドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』(WPCR-18237)へ。1曲目「I.G.Y」は、1990年代の後半に、日本アイ・ビー・エムの「ThinkPad」シリーズのCMソングとしても使われていた。聴くと当時の思い出がわき上がってくる。都会的な雰囲気があり、いま聴いても、そんなに古さを感じさせない。

 ナイトフライは、デジタル録音で制作された世界最初期のアルバムでもある。資料によると1982年制作の50kHz/16bitの3Mデジタルテープを、2002年にDVD-Audio用に44.1kHz/24bitに変換。これをハイレゾCDにも使っているとある。

 オーディオ関連のデモでも定番曲であり、もともと音の評判がいいアルバムだが、MQAデコードをオン・オフした聴いて、明らかにいいのは、44.1kHz/24bitのほうだった。一聴して感じるほどの差がある。44.1kHz/16bitでも十分良いのだが、44.1kHz/24bitでは、多少あった窮屈さ、特に中高域の詰まり感がなくなり、伸びやかな印象になる。低域の硬さや強調感もほぐれて、トーンバランスがより自然に整った印象になる。

 フルトヴェングラー『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」』(WPCS-28420)は、わざわざ書く必要もないほどの名演奏だ。1990年に発売されたCD盤を、学生時代に購入して、過去何十回と聞いてきたが、最新の機器で聴くと、また新しい発見がある。特に、ハイレゾCD盤では、表現の意図や演奏のニュアンスが分かりやすく伝わってきて、うまく揃っていない部分なども含めて、臨場感が増す印象だ。これが新しい感動を生む。このアルバムは6~7年前にSACD化されたことを知たものの、諸事情で購入しなかったのだが、そのサウンドの一端を体験できたのは嬉しい。

 モノラル音源だが、個々の音が明瞭になるだけでなく、空間の広がりなどが向上し、立体的になったような感想も生じる。また、演奏とは直接関係ないが、有名な冒頭の足音や演奏前の緊張感ある雰囲気、観衆のざわめきなども詳細に広いリアルだった。

ハイレゾCDは、名盤に再び触れるきっかけを提供する

 ワーナーがハイレゾCDとしてリリースしたアルバムは、過去に、SACDやDVD-Audioとしてリリースされたものが中心だ。しかし、発売から時間が経過していることもあり、現在では入手しにくいものばかりになっている。実際、タイトルを眺めていると、「あの時、SACDで買っとけばよかったかもな」と思えるタイトルを見つける。

 名盤を高音質で、改めて聞き直す機会を与えてくれる点で、今回のハイレゾCDの企画はありがたい。一方で、要望があるとすれば、やはり、過去の名盤だけでなく、新しく出す音源についても、ハイレゾCDでのリリースを検討してほしいということだ。こういった企画の多くは、アナログ優秀録音の掘り起こしみたいなところがあるが、新しい楽曲を聴いたらどうなるかにも関心がある。

 現在では新規リリース曲の多くが、ハイレゾ音源としても配信されている。一方で、気に入った作品はパッケージとして手元に残しておきたい面もある。CDのパッケージにはジャケットや歌詞カード、録音情報など、配信では手に入れられない情報が含まれているから、作品をより深く知り、楽しむ手掛かりにもなる。ハイレゾCDであれば、音質かパッケージかで悩む必要はない。また、SACDとはちがって専用プレーヤーは用意する必要もない。もちろん音の面では、MQA対応DACを追加するのが望ましいが、なくても普通のCDとして再生できるし、最近ではMQA再生に対応したポータブルプレーヤーも数万円で買える。ディスクでコレクションして、リッピングした音源を高音質なヘッドホンで聴くといった利用方法も広がっていいような気がする。