被害者がもっとも恐れる
「加害者からの報復」

 声を上げずとも、痴漢を撃退する方法があるのではと思う読者もいるかもしれない。たしかに、先日「痴漢の手に安全ピンを刺す」という撃退法がSNS上で話題になったが、斉藤氏は「安全ピンで刺すのは被害者にとってハードルが高い」と話す。

「被害者がもっとも恐れているのは、加害者からの報復です。被害者が女子高生の場合は制服を着ているので、学校を特定されるリスクを負っています。もしも、安全ピンを使用して相手を逆上させたら、家までつけられてストーカーに発展するのでは、と想像すると怖くて反撃ができないと話す被害者は多いです」

 実際に被害に遭ったあとも、恥ずかしさから親や教師など、身近な人への相談もためらう傾向がある。そもそも相談しようにも誰も「なぜ痴漢は痴漢をするのか」について明確な回答ができないため、被害者は自分で抱え込むしかない。さらに、電車内に多くの人が乗っていても、第三者が告発するのは至難の業だと斉藤氏は話す。

「私が耳を疑ったのは、痴漢が女性の性器に指を入れたまま電車を一緒に降りてきた、という事例です。それでも、第三者が気づくことはなかったそうです。周囲は見てみぬふりをしていたのかもしれません。ただ、加害者は、満員電車のなかで“いかにバレずに痴漢できるか”に注力しているので、被害者以外が犯行に気づくのも難しい状況なんです」

 狡猾な加害者と恐怖で声を上げられない被害者、そして犯罪に気づくことができない人々が同乗する“異常な匿名空間”が、満員電車なのだ。