64社もの企業を買収し、大手モーターメーカーに成長した日本電産――。失敗しない秘訣は買収した企業の社員を突き動かす“アメとムチ”の人心掌握術にあった。特集「人・組織を鍛え抜く 日本電産『永守流』」(全10回)の#5では、その秘密を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
「海外の人材でトップクラス」と
永守会長が評価するイタリア人
日本電産が海外企業のM&A(企業の合併・買収)を加速している。買収された企業の社員が意気消沈しがちなのは洋の東西を問わない。
日本電産は、いかに買収先企業の社員のモチベーションを高め、経営を立て直しているのか――。傘下に入った会社の経営を軌道に乗せ、永守重信会長に「日本人的な気持ちも持っとるし、うちの海外の人材でトップクラス」と言わしめる人物がいると聞き、イタリアの子会社を訪ねた。
その人物が担当するのは、日本電産の成長分野の一つである、家電用(洗濯機や食洗器向け)モーターだ。
ベネチアの空港から車で1時間ほどの田舎町にある工場は、決して新しくないが、整理整頓といった日本電産の基本を徹底するためのポスターが随所に張られており、確かに清潔に保たれている。記者が訪問した9月中旬は、ロボットを多用することで要員を半減する製造ラインを建設中で、活気に満ちていた。
この工場を運営するACIM GA社のバルター・タランザーノ社長こそが永守氏から「トップクラス」の評価を得る人物だ。日本電産グループに入ってから、「コスト削減などで2桁の利益率を実現」(タランザーノ氏)し、前向きな設備投資を可能にした。
M&Aにも積極的だ。グループ入りしてから、ルーマニアやブラジルなどの三つの会社を買収。それによって冷蔵庫の主要パーツで3割の市場シェアを得るなど勢いづいている。
こうした成長戦略を現地で指揮するタランザーノ氏とはどんな人物なのか。