単純な特許だからこそ簡単につぶせない
プロの見立ての決着は和解金?
「特許の内容は非常にシンプル。というより、よくこれが特許になったな、という印象だ。実用新案レベルとも思える」とある弁理士は苦笑いする。
というのも、アスタリスクの特許内容は、アイデアとしてはどこにでもありそうな、単純なものだからだ。
ただし、「こうした単純な特許ほど、特許登録されている場合は非常に強い特許になり、簡単に潰せなくなるのが業界の通説だ」と知財コンサルタントの藤野仁三氏は解説する。
特許の無効審判は、「なぜこれが特許になるんだ」という気持ちの表れと、「この特許に疵がある」という手続きをすることで、和解後の交渉を有利にするために行われることが多い。
「権利になったものを無効にするためには、証拠に条件がある。まず、本など印刷物になっていることが必要。アイデアとして珍しくないものについては、かえってあまり出版物として残されていないため、探すのが困難になる」(藤野氏)
仮にそうした切り札をファストリ側が持っていたとしたら、ライセンス交渉の段階でカードを切っていたはずだ。
そうであれば、ファストリ側の、「この特許は『特許』と呼べるようなレベルのものではない」との主張も説得力を持つ。
しかし、出願中の特許であればまだしも、正式な手順を踏んで登録された特許を無効にするのは、そう簡単ではない。特許無効が安易に認められると特許制度の信頼がゆらぐからだ。
これまで「特許が無効にされ、特許をとる意味がない」というあきらめの空気が産業界にみられた。そのこともあって、近年では、裁判所が特許権者に不利にならないような判決を出す傾向にあり、特許庁もそれに倣うという流れになっているというのが知財業界の常識だ。
こうした経緯を踏まえると、ファストリは不利な状況である。その上、もしも差し止め命令を裁判所が出してしまえば、セルフレジの使用ができなくなる。セルフレジ化を止めて現状のレジに戻すなどということは、IoTを活用したサプライチェーンの構築という同社の企業戦略にダメージを与えるため、考えにくい。「どこかの段階で、和解金で決着するだろう」と、藤野氏は予想する。
テックバイザー国際特許商標事務所弁理士の栗原潔氏も、「もともとアスタリスクは特許権ライセンスを要求していたので、それに応じることになると思います」と話すと同時に、「条件面で折り合わなければ侵害しないタイプのレジ(従来の平置き型)に切り替えることも考えられます」と今後の展開を予想する。
では、実際にライセンスフィーが払われた場合、どのくらいの金額になるのか。