「この特許は金を払うに値しない」と一蹴
特許無効を訴え対抗するファストリ
そして翌年となる19年1月、アスタリスクが出願していた特許が登録された。鈴木社長からファストリのIT事業担当者に特許取得の旨を伝えた。
ユニクロに新型セルフレジが導入され始めたのは同年2月以降だ。そのころから、アスタリスクとの話し合いの場に、法務部の知財担当者が現れるようになった。
「月に1回は話し合いの場が設けられました。毎回『今日は本社で』『今度は有明で取締役に説明して』と、ファストリに呼び出されるんです。下請けだからでしょうか。企業同士で特許権者側にこんなことはさせないと思いますが……」(鈴木社長)
確かに、アスタリスクはファストリに納入している製品がある。契約を打ち切られる恐れがあるという弱みから、交渉も穏便に済ませたかったというのが鈴木社長の本音だ。そのため、同社製品の納入か、ライセンス契約を提案し続けた。
しかし、ファストリ側には「この特許は金を払うに値しない」と一蹴されたという。
5月、ファストリは同特許に対して、無効審判を請求した。特許権を侵害しているのではなく、そもそもこの特許は無効であるという形で対抗したわけだ。
「顧問弁理士には、『早く差し止め請求をしたほうがいい』と言われていました」とも鈴木社長は言う。しかし、鈴木社長は水面下の交渉にこだわった。無効審判請求の後も、ライセンス交渉は続いた。
そうしている間にも、ユニクロのレジはどんどん新型レジに変えられていく。しびれをきらした鈴木社長は、9月20日を最後の話し合いにしたいとファストリ側に通達した。
そして、そのときにファストリが出した回答が、冒頭の「ゼロ円ライセンス」であった。
「9カ月も話して、結果がゼロ回答です。今までの話し合いはなんだったのかと」
ここで腹を括った鈴木社長は、9月24日、ユニクロのセルフレジに対して特許権侵害行為差止仮処分命令申立を行うに至ったのである。
今後の展開としては、まず10月29日にファストリ側の無効審判の口頭審理が行われ、戦いの火ぶたは切られる。無効審判の結果が出るのは来年前半とみられるが、特許が無効になればアスタリスクの異議申し立てが行われる可能性が高く、数年争うことが予想される。
ファストリ広報は、本誌の問い合わせに対し、「係争中のため、詳細についてはコメントを控えさせていただきます」と回答した。
しかし、この「金を払うには値しない」とファストリ法務部が言い放った特許を、専門家はどう見るか。