両者合意のあおりをくらった
地方業者「全てがおじゃん」

「せっかく準備を進めていたのに、残念で仕方ない」。ある中堅運送会社の幹部はがっくり肩を落とした。

 アマゾンは東京、大阪、名古屋の大都市圏でデリバリープロバイダによる配送を増やしてきた。10月からは地方10県以上にエリアを拡大しようと、地場運送会社を選定していた。

 この運送会社も誘いを受け、車とドライバーの手配に奔走していた。ところがサービス開始直前になり、「全てがおじゃんになった」(前出の幹部)。裏では宅配最大手ヤマト運輸とアマゾンの運賃交渉が進んでおり、この合意を受けてデリバリープロバイダの地方拡大にストップがかかったもようだ。

 もっとも、アマゾンが自前で宅配網を構築する気がなくなったわけではない。

 19年からは個人事業主のドライバーに業務委託を直接行う「アマゾンフレックス」という仕組みを本格スタートさせている。

 この仕組みでは、軽ワゴン車を持っていて、指定の窓口で事業用ナンバーを取得すれば配達業務を行える。軽ワゴン車はアマゾンからリースでも借りられる。「働く時間を自分で決める自由な働き方」をウリに、「月額37万~44万円以上の報酬」を得られると宣伝している。

 フレックスのドライバーによると、スマホでアプリをダウンロードし、契約書の同意欄にクリック回答すればすぐに始められる手軽さで、指定の配達ステーションで担当分の荷物をピックアップし、アプリでルート確認しながら配達すればいいので、宅配未経験者でもできるという。登録数は1200程度、常時稼働しているドライバーは350~400人程度と見られる。

 東京都と神奈川県でスタートし、現在、品川区と大田区はほぼ全て、フレックスが担っているもよう。名古屋、仙台、札幌エリアでもドライバーを大募集している。

 アマゾンOBによると、フレックスは事業リスクがあり、数年前までは導入に乗り気ではなかった。しかし右肩上がりに増えるユーザーと、反比例するかのように宅配事業者が荷物を運べなくなる現状に業を煮やし、導入に踏み切ったという。

 フレックスを拡大できれば、早晩、デリバリープロバイダの方は抑制されるだろう。というのも、アマゾンはデリバリープロバイダ各社と、実際の運び手との「差益」を問題視している。各社は、個人事業主と契約してアマゾンの荷物を運ばせているところが多い。運送業界の“下請けピンハネ構造”を、アマゾンは非効率的で無駄が多いと見ているのだ。

 結局のところ、国内運輸業に対し、アマゾンが一枚も二枚もうわ手。サービス品質が高く全国規模で展開するヤマトから荷物量増大と共に運賃据え置きあるいは値下げを勝ち取り、自社網の構築も着々と進めている。