減少した数量の拡大を優先
運賃は据え置きか300円台に値下げ

 これを受けてアマゾンは、地域に密着した中堅配送業者に配送を委託するかたちで自社配送網の強化に動き出した。「デリバリープロバイダ」と呼ばれる提携業者に委託する割合を増やすことで、ヤマトに頼らず、物流コスト全体をコントロールしようと試みたのだ。

 当初、デリバリープロバイダは問題が多かった。「日時指定通りに届かない」「配達員の態度が悪い」などサービス品質の面で、利用客の苦情が後を絶たなかった。クレームを受けてアマゾンは、デリバリープロバイダの担当地域と業者の入れ替えに追われた。

 その後、デリバリープロバイダはアマゾンの自前輸送網として成長していった。アマゾンのサードパーティーロジスティクス(企業物流の一括請負)だったファイズホールディングスや、SBSホールディングス傘下のSBS即配サポート、丸和運輸機関(宅配事業ブランド「桃太郎便」)、ロジネットジャパングループの札幌通運などはアマゾンの倉庫や宅配業務で急成長を遂げた。株式市場でも「アマゾン関連銘柄」として人気だ。

 一方のヤマトは、働き方改革のための人件費や、外部業者に委託する「下払い費」がかさむ中、「荷主離れ」が想定以上に進んだ。減り過ぎた取扱量を取り戻そうにも、思うように戻らなくなった。

 足元の業績を見ると、19年1~3月期、4~6月期が四半期ベースで2期連続の営業赤字。物流業界では高収益体質で知られたヤマトにとって、「こんな体たらくは過去に記憶がない」(ヤマトOB)緊急事態である。

 アマゾンに対する値上げに成功したヤマトは当初、20年以降に再び値上げする予定だった。しかし、緊急事態を受けて方針を転換した。アマゾンのデリバリープロバイダの広がりに対する危機感もあっただろう。8月頃から両者は交渉に臨み、関係者によると数量拡大を優先し、400円前後の据え置きあるいは300円台への値下げで合意した。

 ヤマトは2四半期連続営業赤字の対策として、「プライシングの適正化」や「集配キャパシティに応じて取扱数量を拡大」を表明している。従って、アマゾンへの運賃交渉と数量拡大は経営陣の施策通りではある。が、「採用しても定着しないので人が増えた実感はない」と現場のドライバー。また、「集配数に応じた歩合給や残業代が削られたことで収入が大きく減り、中堅やベテランのドライバーの間には不満が渦巻いている」(関係者)。ヤマトの労働組合もこの点を最重要テーマに掲げており、経営陣がこれに応えたと見ることもできる。

 いずれにしても集配体制を盤石にしないまま数量を増やせば、働き方改革が元の木阿弥になる可能性もある。11月に創業100周年を迎えるものの、社内は決して祝賀ムードではなく、むしろ赤字からの脱却、そして株価下落により時価総額でSGホールディングス(中核子会社に佐川急便)に追い抜かれたことに大きな焦りを感じているという。

 10月末に発表される7~9月期の決算では、営業赤字からは抜け出すものの、20年3月期通期の営業利益は、従来予想から下振れる可能性が高い。創業100周年にあたる今期に、売上高1兆6950億円、営業利益720億円の過去最高益を計上することで、業績回復と会社の信用回復を同時に叶え、鮮やかに完全復活を遂げる算段だったが、夢に潰えそうな状況だ。

 荷物1個あたりの単価が低くても、数を増やせば収益を上げられるというのが創業者・小倉昌男の考え方だった。ヤマトは郵便局に対抗して全国津々浦々に営業センターを増やし(現在は約7000カ所)、それぞれが取り扱う荷物の数を増やすことで、「配達密度」を高め、利益を上げてきた。それでも「昔も今も、地方は密度が足りない」(関係者)。アマゾンが地方でも自前網を整備してしまえば、ヤマトのビジネスモデルも存在意義も根底から覆される。まさに100年目の危機である。