量子ビジネス#6Photo:matejmo/gettyimages

中国の量子コンピューターや量子通信への力の入れようは目を見張るものがある。産官学で量子技術に全力投球するのはなぜか。2020年元日に中国政府が施行した「暗号法」の狙いは何か。特集『乗り遅れるな!量子ビジネス』(全6回)の最終回では、中国の量子技術への野望をレポートする。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

世界初の量子衛星を
中国が実現させた

 分け隔てない博愛を唱えた中国の戦国時代の思想家、墨子。彼は今、天空からこの世界を見下ろしている――人工衛星になって。

量子衛星墨子号の打ち上げ成功を伝える中国科学院の公式ホームページ

 2016年8月、墨子号という名の量子科学実験衛星(量子衛星)が打ち上げられ、軌道に乗った。量子衛星の打ち上げ成功はこれが世界で初めて。中国科学技術大学や中国科学院などによる国家プロジェクトの成果だ。

 量子衛星とは量子暗号通信技術を搭載した人工衛星のこと。そして量子暗号通信とは、光の粒子(光子)の性質を利用した通信技術だ。その通信内容は暗号化されており、既存のコンピューターでは解読できないとされている。墨子号は現在に至るまで順調に航行しており、北京とオーストリア・ウィーンという長距離間でハッキング不能なテレビ会議を実現する(17年に成功)といった成果を挙げている。

 プロジェクトの責任者を務めた中国科学技術大学の潘建偉副校長は、打ち上げが成功した際に中国国内メディアの取材に対して、驚くほど明確に技術のロードマップを語っている。