量子ビジネス#5
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量子コンピューターの中で、最適化問題に特化したのがアニーリング方式だ。産業応用が期待されているが、実際に現実の問題をどう計算するかは難題である。デンソーは東北大学と工場内の配送の効率化を模索。富士通とNECは学生の知恵を頼った。特集『乗り遅れるな!量子ビジネス』(全6回)の#5では、現実社会の問題の解決を模索する産学の動きを追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

デンソー工場の無人搬送車の
稼働率が15ポイントアップ

「工場の最適化に挑戦したい」――。

 2018年4月、東北大学量子アニーリング研究開発センター長の大関真之准教授に、こんな打診が舞い込んできた。依頼主は、自動車部品大手のデンソーである。

「目的がふわっとしているな」。当初こう感じたという大関准教授は、早速デンソーの工場に赴きヒアリングを実施。現場が何に困っているかを聞き出し、解決できそうな課題を探った。「これなら量子アニーリングが使える」。目を付けたのは、工場の無人搬送車だった。

 量子コンピューターは、ゲート方式とアニーリング方式の大きく2種類に分けられる。ゲート方式の特徴は、従来のコンピューターが計算できたあらゆる問題に対処できる汎用型。量子コンピューターの“本命”と目されており、19年10月に量子超越を達成した米グーグルのマシンもゲート方式だ。

 一方、アニーリング方式は、組み合わせ最適化問題を解くことに特化。用途を限定した分、ゲート方式より商用化で先行する。「世界初の商用量子コンピューター」をうたってカナダD-Wave Systemsが量子アニーリングマシンを発売したのは11年5月。グーグルの量子コンピューターは53量子ビットだが、最新のD-Waveのマシンは2048量子ビットを実現している。

 ただ、量子アニーリングの弱点は、実験では計算速度が速いという結果が出ているものの、既存のスーパーコンピューターよりも速いという厳密な理論上の裏付けがない点だ。これが、スパコンより速く計算できるアルゴリズムが存在するゲート方式に海外勢が注力する理由だ。

 量子アニーリングの原理は1998年に東京工業大学の西森秀稔教授らが提唱した。こうした背景もあり、日本は量子アニーリングの人材が多く輩出され、既存のコンピューターで量子アニーリングをシミュレーションする「アニーリングマシン」を手掛ける企業も増えている。

 量子コンピューターを産業応用していく場合に、鍵となるのは何の問題を解かせるかだ。現実社会の課題を、マシンが解くことができる問題へと落とし込む必要がある。