量子コンピューターはスーパーコンピューターよりも“本当に”速く計算できる──。2019年10月に米グーグルが「量子超越」を達成したとする論文を発表したことで量子コンピューターの開発競争が活気づいている。最大のライバルである米IBMは、日本に量子コンピューターを設置すると発表。技術力の高い日本メーカーを巻き込み、開発競争でリードすることを狙う。特集『乗り遅れるな!量子ビジネス』(全6回)の#1では、量子コンピューターのハードウェア開発競争の最前線に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
大学の研究チームを丸ごと買収して実現
専門家も興奮したグーグル「量子超越」
2019年夏。公開前の一本の論文が、大阪大学教授の藤井啓祐の元に届いた。差出人は英科学誌「ネイチャー」の編集部。査読の依頼だった。論文の執筆者は米グーグルの量子コンピューター開発チーム。量子コンピューターで、既存のスーパーコンピューターよりも高速で計算する「量子超越」を達成したとする内容だった。
「実機を使って実験するという青写真は数年前から予定されていた。いずれは発表されると期待していたが、本当に出たことは驚異的で、興奮した」と藤井は振り返る。
量子コンピューターのアイデア自体は30年以上前から存在していた。1982年、ノーベル物理学賞を受賞したことでも有名な米物理学者のリチャード・ファインマンが、「もしも自然をコンピューターでシミュレーションしたければ、量子力学のルールで動くコンピューターを作るべきだ」と提唱したのだ。
注目が集まったのは94年。米数学者のピーター・ショアが、量子コンピューターを使えば素因数分解を高速で解くことができるアルゴリズムを開発した。これで産業界の量子コンピューターへの見方が変わった。