新型肺炎は中国と世界の経済にどのような影響を与えるのか? 筆者は取材のため、中国のエレクトロニクス産業の中心地である広東省深セン市に飛んだ。特集『断絶!電機サプライチェーン』(全8回)の#3は、機能停止した巨大都市の現地ルポ。(ダイヤモンド編集部特任アナリスト 高口康太)
エレキの聖都・深センでは
お札まで消毒対象だった
2月17日、中国・深セン宝安国際空港。降り立った瞬間から、いつもとは違う緊張感が漂っていた。入国前の検疫所には、医療用のフェースシールドを着けたスタッフが2人。非接触型体温計で熱がないかどうかを調べられ、ようやく入国だ。
同空港の旅客数は中国本土では第5位。普段は多くの人でごった返しているが、今日はがらんとしている。網の目のような特徴的な天井は、イタリアの国際的な建築家、マッシミリアーノ・フクサス氏によるデザイン。人が少ないせいか、このデザインが妙に目立つ。
普段ならば大行列ができているタクシー乗り場にも人の姿はなく、客待ちのタクシーがずらりと並んでいた。車に乗り込むと、前部座席と後部座席の間に透明なシートがかけられている。深セン市は中国南部に位置するとはいえ、やや肌寒いぐらいの気温。それでも運転手は窓を開けて走った。全ては感染を防ぐためだ。
極め付きは支払いだった。運転手は100元札を受け取ると、消毒液を吹き掛けた。そしてお釣りを渡しながら「どうぞ。安心してください。消毒済みです」と言った。
今回の現地取材の主眼は、深センの経済活動が実際のところ、どこまで停滞しているのかを探ることだ。実態を知るために筆者が向かったのが、iPhoneの組み立てで知られる世界最大のEMS(電子機器の受託製造)、台湾・鴻海精密工業の工場だ。