かつて農政には、農協、自民党農林族、農水省が既得権益を確保する「農政トライアングル」が存在した。その一角を占めた農協は政治力を落としたが、残りの二つは強かに利権を守り、勢力を伸ばしてさえいる。特集『農業激変 JA大淘汰』(全9回)の#5では、農水省の人事権を握った農林族の“首領”に忖度する農水官僚の体たらくをレポートする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
復活した自民党農林族
森山氏率いる“畜産閥”の勢力拡大
農政運動が華やかなりし頃、自民党農林族には、農業予算の確保や米価の引き上げを求めて官僚をどう喝するなど「こわもて」がそろっていた。
現在の農林族にはかつてのような存在感がない。それに、環太平洋経済連携協定(TPP)参加や農協改革など、既得権を脅かす政策が推進されたため、農林族の勢力が衰えているようにも見える。
しかし、そうした印象を持つこと自体が農林族の術中にはまっているといえるかもしれない。現代の農林族は鉢巻きをしたり、拳を突き上げたりといった劇場型ではなく、スマートなやり方で既得権を守っているのである。
「あの人がうんと言わないとあらゆる重要事項が前に進まない」。そう農水官僚に言わしめる農林族のボスが鹿児島県選出の森山裕氏だ。
派手なパフォーマンスを嫌うタイプだが、党務にも精通した自民党の重鎮として安倍政権を支えており、農水省の次期次官人事も「森山氏がこの官僚だと推薦すれば、官邸は拒否できない」といわれる。
森山氏が農林族のボスの座を争うライバルは、同じく安倍政権で農相を務めた西川公也氏だった。2人は農相だけでなく、畜産の業界団体である中央畜産会の会長を巡ってもポスト争いを続けてきた。
結局、2017年の衆議院議員選挙で西川氏が落選したことで、両者が譲らず空席になっていた中央畜産会会長に森山氏が納まることになった。森山氏はその後、自民党の国会対策委員長の仕事ぶりが認められ、農林族のボスの地位を確たるものにした。