創業103年目にして過去最高益を更新したキッコーマン。同族経営の宿命ともいえる弱点を、キッコーマンは巧みに回避してきた。特集『キッコーマン 最強“同族経営”の錬金術』(全5回)の#1では、創業家に伝わる同族経営の弱点を打ち消す“知恵”の秘密を探った。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
103年目でも最高益を更新
成長を続ける老舗同族企業
「(創業家出身の)ボンクラ息子で駄目なやつが社長になったケースは、キッコーマンにはない」
こう言い切るのはキッコーマンの茂木友三郎名誉会長だ。創業103年目のキッコーマンは、2019年3月期の純利益が259億円と過去最高益を達成。20年3月期も第3四半期までの業績で過去最高益を更新しており、老舗企業ながら今なお成長を続けている。
「日本に限らず、世界的に見ても長期にわたって存続する企業には同族経営が多い。そして、同族企業の業績のパフォーマンスは優れている」
こう語るのは、企業経営に詳しい早稲田大学大学院経営管理研究科長の淺羽茂教授だ。日本に同族経営の企業は想像以上に多く、上場企業の約6割が同族経営という統計もある。豊田家のトヨタ自動車や、鳥井家・佐治家のサントリーホールディングス(HD)など、グローバルに事業展開する企業は同族経営の代表格だ。
「醤油の王者」キッコーマンもれっきとした同族経営企業だ。同社の広報部は、「現在のキッコーマンは指名委員会で社長を選んでおり、創業家以外からも社長が出ているため同族経営ではない」と主張するものの、同族経営の風習は色濃く残る。
実際、社内取締役は8人中4人、代表権を持つ役員に至っては、3人中2人が創業家とゆかりがある。
同族経営には宿命ともいえる“弱点”が存在する。
「ボンクラ息子問題が、同族経営の最大の弱点だ」と語るのは、同族経営に詳しい京都産業大学の沈政郁教授。この問題を解決できず、企業が倒産や廃業に追い込まれた例は、枚挙にいとまがない。
親が優秀であっても、子が優秀とは限らない。「ボンクラ息子問題」とは、家業を継がせる能力がある息子や娘がいないこと、もしくは子供が継いだものの、社長として親に比べて大きく劣るという課題である。同族経営の企業が長期にわたって存続するためには、優秀な人材の育成など創業家が知恵を絞る必要がある。
キッコーマンはこの問題を巧みに避けてきた。創業家出身でキッコーマンの“ドン”である茂木氏によれば、同社の創業家が守ってきた“掟”があるという。