日本航空の破綻と再生についての話の続きをもう1回だけ。この一連の騒動から引き出せる教訓について僕の思うところを主張しておきたい。

 繰り返しになるが、公的資金投入と会社更生法適用の同時実施は、極めて異例の手厚い救済措置だ。企業再生の専門家からすれば、日本航空の破綻はあからさまに「いいタマきたな……」という案件だったのではないか。政府の介入によるこれだけの過保護があれば、その道のプロからすれば、「鉄板案件」であることははじめから明らかだったのではないかと推測する。

非常時こそ原理原則が大事

 結論から言えば、日本航空への公的資金の投入は明らかにやり過ぎで、政府当局の失策以外の何物でもないというのが僕の見解だ。僕の批判の対象は現在の日本航空の経営陣ではない(過去のユルユル経営は批判されて当然だが)。経営に責任をもつ立場として、再生に向けて少しでも良い条件を引き出したいと思うのは自然な話。問題は政府の対応だ。混乱の中で素人があわててなれないことに手を出した挙句の大盤振る舞い。ことの成り行きについてあまりにも理解が浅薄だと言わざるを得ない。

 一連の騒動から引き出せる教訓を一言でいえば、非常事態への対処においてこそ原理原則が大事、ということだ。政府は個別の民間企業に政策介入すべきではない。これは産業社会の原理原則だ。とくに経営破綻に陥ったときに個別に救済に乗り出すのは筋違いも甚だしい。これが許されるのは、社会を構成する不特定多数の人々に甚大な不利益がある場合に限られる。

 日本航空は会社更生法にのっとって「普通に破綻」させるべきだった。債権放棄にかぶせるような公的資金の投入は筋が悪すぎる

再生後の成り行き

 起きてしまったことといえばそれまでだが、これからできることも少なくない。これを書いている時点ではぎりぎり「予定」であるが、日本航空は2012年9月に東証一部に再上場するということになっている。上場したらどうなるか。当たり前の話だが、上場企業として株主に対して責任を負うことになる。一度縮小した事業を再成長させる動機を経営がもつのは必然的な成り行きだ。

 だとすると、政府の介入による過剰な救済が公平な競争環境をゆがめることになりかねない。日本航空もこれからは極端な人件費の抑制(「ボーナスゼロ」とか)を続けられるわけではないし、成長のためには航空機への投資も必要になる。破綻直後のような低コストはさすがに維持できなくなるだろう。

 ただし、再上場後も過剰な救済の影響は少なからず残ることになる。前回も指摘したことだが、継続使用の機体についても資産評価損が計上されている。つまり減価償却費の抑制によるコスト優位は持続するということだ。企業再生支援機構による3500億円の出資にしてもそうだ。念のため確認しておくが、これは日本航空への出資であるが。日航が借金をしているわけではない。返す必要はないカネなのだ。

 いちばん問題なのは、法人税免除の特例が再上場後も2018年まで続くことになっているということだ。公的資金を受けて業績を回復し、再上場したにもかかわらず、普通であれば支払うべき税金を減免されるというのは常識で考えて間尺に合わない。

 ただでさえ税収に苦しんでいる日本である。この辺、僕は法制度のテクニカルなことについての知識に欠けるので素人談義かもしれないが、常識からして法人税の減免特例の見直しぐらいはすぐに手をつけるべきだという気がする。

 しかも、法人税の減免分は、そのまま内部留保もしくは配当に回すことができる。ちょっと前にヨレヨレだった会社が、破綻したがゆえに突然体力をつけて攻撃に転じる可能性があるというわけだ。自助努力でやってきた競合他社にとってはやりきれない話だろう。

 たとえば、論理的にはあり得る戦略として、「高収益体質」を武器に資本力にものを言わせてライバルに価格攻勢を仕掛けきたらどうだろう。もしそんなことになれば、とんでもない話である(ま、あくまでもそういう可能性があるというだけで、さすがに日航がそうした意図をもっているとは思はないが)。そうした行動は厳しく監視・規制されなければならない。

 いずれにせよ、経営破綻した企業の更生手続きというものは、あくまでもマイナスをゼロまで持っていくため(だけ)のものだ。公的支援はゼロからプラスをつくるような戦略的アクション(たとえば成長戦略)に充当し得るものであってはならない。しかし、今回の政府の対応は、成長戦略にどうぞ充当してください、といわんばかりの内容になっている。