労働契約における
「安全配慮義務」を守っているか?

 確かに法律では、コロナウイルス対策として「マスクを着用すること」という具体的な義務を定めた規定は見当たらない。しかし、労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定され、労働契約における使用者の安全配慮義務が明文化されている。

 これまでも裁判例を通して、使用者には労働者に対する安全配慮義務があることは確立してきたが、具体的に何をしないと安全配慮義務違反、すなわち労働者から損害賠償請求を受けることとなるかについては、上記5条でも明確ではなく、裁判例では「使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なる」とされているので、それぞれの職場により求められる安全配慮は異なると考えられる。

 しかし、今般の新型コロナウイルス感染防止策を会社で適切に行うべきことは安全配慮義務の履行として当然に求められることであろう。たとえば、以下のような対策をすることが安全配慮義務の具体的な履行であると考えられる。

(1)新型コロナウイルスについての正確な情報を収集すること(厚生労働省HPなど)
(2)せきエチケットを徹底すること。マスクを着用させること(それぞれ自らが感染しているかもしれないという心構えで対応すべきであること)
(3)せっけんでの手洗い、うがいなどの予防策の実施、啓発
(4)必要性、緊急性のない会合の中止・延期要請
(5)感染者が出た場合の連絡体制の整備
(6)日々の連絡による健康状態の把握、体調不良の従業員には出勤させない、あるいは帰宅を指示すること

 これらはいずれも厚生労働省などのホームページで必要な感染防止策として紹介されているものである。例えば「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業で働く方々等の感染予防、健康管理の強化について」で示されている。

このような基本的な安全対策を怠って、その結果、社内で感染者が発生したり、従業員間で感染が蔓延したりした場合には、濃厚接触者の自宅待機、社屋の閉鎖などが必要となり、会社の業務中断は必然の結果となる。そればかりか、感染した従業員からは安全配慮義務違反として損害賠償を請求されることとなるであろう。