「非科学的根性論」に下った
厳しい裁判所の判断事例

「非科学的根性論」の会社もあると聞く。ある会社では「新型コロナウイルスに感染するなどという従業員は根性が足りない」とか、「気合でコロナウイルスなど吹き飛ばせ」などと威勢のいいことをいう上司がいると聞いた。

 そのような会社の上司には、ぜひ、最高裁判所平成13年3月13日判決を教えてあげたい。

 これは、高等学校の生徒が、課外のクラブ活動としてのサッカーの試合中に落雷により負傷した事故について、引率者兼監督の教諭と学校に損害賠償が課された事例である。

 判決では、落雷事故発生の危険が迫っていることを予見すべき注意義務に違反があるとされたが、そこでは「その当時の文献には、運動場に居て雷鳴が聞こえるときには、遠くてもそれは落雷の範囲内であるとして、直ちに屋内に避難すべきであるとの趣旨の記載が多く存在していること、上記試合の開始直前ころには、黒く固まった暗雲が垂れ込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたことなど判示の事実関係の下では、引率者兼監督の教諭は、落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったものというべきである」と判断をした。

 そして、「たとえ平均的なスポーツ指導者において、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても」同教諭が注意義務違反であることに変わりはないとした。なぜなら、そのような認識は、その当時の「科学的知見に反する」ものであるからとされた。つまり、ここで重要なことは、科学的知見をきちんと有していないと、安全配慮に関する注意義務違反となるということである。

 それは新型コロナウイルス感染問題でももちろん当てはまることであり、他の会社が新型コロナウイルス感染に関する医学的知見、科学的知見を有せず、あるいは軽視して、無頓着に業務を継続させたり、安全対策を怠って業務をさせていたりしていたとしても、「他社だって同様な状況で業務継続をしているのだから、当社だけ責任があると言われるのはおかしい」などの弁解は全く通用しない、ということである。会社がそれぞれ医学的知見、科学的知見を得て、十分な責任を認識して従業員の安全対策を構築していただきたいと願う次第である。

 昨今、株主総会が開催されているが、従業員が「受付業務を担当したくない」と拒否することは現実に起きている。従業員は会社が自分たちを守る気があるのか、真剣に見ていることを事業者は忘れてはならない。