「消毒液を置いている」だけでは
裁判に負ける可能性がある

 実際の判例も、それを示している。最高裁判所平成3年4月11日判決は、下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり、元請企業の管理する設備、工具等を用い、事実上元請企業の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであるなどの状況においては、「元請企業は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対して安全配慮義務を負うものである」としている。

 客先常駐の請負事業者の従業員においても、そのような「特別な社会的接触の関係に入った」と判断される可能性はあり、そうであれば、今回の新型コロナウイルス感染症の安全対策に、彼らも一緒に取り組んでもらう意味は十分にあると言いうる。

 さらに、会社としては、形式的には一応在宅勤務を認め、また社内感染対策も一応整えたが、実際には在宅勤務を実施できるような雰囲気ではない、あるいは、感染防止の手指消毒の利用や手洗いなどの実施がなされていないという状況にあることも想像できる。

 このような状況を放置しておくことも、安全配慮義務違反となる可能性が高いと考えるべきである。福岡地方裁判所平成13年12月18日判決では、炭鉱現場で会社が提供していた防じんマスクや散水設備を使用せずに業務を行った従業員が、じん肺に罹患した場合の会社の安全配慮義務の範囲について「防じんマスクを支給して着用させるべき場合には、労働者に対し、防じんマスクの着用の必要性を理解させ、適切な管理、使用法を教育し、着用が守られていない場合には、正しく着用するよう指導監督すべきであった」と判断した。

 すなわち、単に手指消毒のポンプを置いているだけでは安全配慮を尽くしたとは言えない。利用しているかどうかを確認して、利用していないようであれば、きちんと指導して利用させるまでが安全配慮義務の範囲と言われる可能性がある、ということだ。もちろん、炭鉱現場と一般的な事業所とは適用法令も異なるが、今回の新型コロナウイルス感染では「一応、形式的な対応策は整えた」という状況の会社が多く、非常に憂慮すべきだと考える。