社員以外に対しても
対策は義務付けられている

 会社は「感染防止は従業員の自己責任ではないか」と反論するかもしれないが、大規模災害(地震や津波)発生時にも、会社は従業員の安全を確保する義務があると、東日本大震災の被災に関する裁判例は判断している。例えば、仙台地方裁判所平成26年2月25日判決では、「被告(銀行)は、…その生命及び健康等が地震や津波といった自然災害の危険からも保護されるよう配慮すべき義務を負っていたというべきである」と断じている。

 この裁判例だけでなく、多くの災害時の損害賠償請求事件の判決で、明確に判断されている。この点はぜひとも記憶しておいてほしい。そして、重要なことは、前述のとおり、今回の新型コロナウイルスまん延防止対策についても上記裁判例と同様に、従業員の安全配慮義務として必要なものである。

 したがって、前述の事例のように「マスク着用が禁止されている会社」であったり、「マスクはあくまで体調不良の者がつける物だ。手の消毒だけしていればいい」と述べたり、さらには「全社員100名が集合する会議への参加は絶対で断れない」などという状況の会社は、安全配慮義務違反となる可能性があり、早急に改善に取り組むべきである。

 また、「正社員には時差出勤が命じられたが、派遣社員にはなんの連絡もない」との相談もあるようだがこれも問題である。

 派遣社員の安全配慮義務は派遣元(派遣会社)だけでなく、派遣先(派遣されて勤務している会社)にも明確に課されている(労働者派遣法45条、労働安全衛生法3条)。危険な業務については、派遣社員にだけ実施させるなどということを聞くが、言語道断である(安全対策を講じないで実施させれば、安全配慮義務違反である)。

 さらに言えば、「客先常駐」という形態の請負業務(システムエンジニアなど)をしている外部の事業者に所属する従業員に対しても、安全配慮義務があると考えていただきたい。これは今般の新型コロナウイルス感染症の拡大防止には社屋に入る人々の契約形態などとは関係なく、どのような人であってもまん延防止策を徹底してもらうことが必要であるし、裁判例から考えれば、雇用関係等の契約関係がなくても「安全配慮義務があるとされる社会的接触関係」が認められる可能性があるからだ。