地方銀行の間で「引き当て競争」が始まろうとしている。銀行は、融資先企業の業績悪化や倒産に備えて貸倒引当金を積むが、財務余力の有無でその多寡に格差が生まれつつあるからだ。特集『銀行vsコロナ』(全12回)の#7では、余力のない地銀に待ち受ける再編もしくは公的資金の注入のシナリオに迫った。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)
地銀界を襲った「ふくおかショック」
コロナ禍が地銀にもたらす引当格差
福岡銀行を中心とする銀行持ち株会社のふくおかフィナンシャルグループ(FG)が4月28日に発表した2020年3月期業績予想の修正を受け、地方銀行業界に激震が走った。
ふくおかFGが同期に計上する傘下行合算の貸倒引当金を、従来予想の101億円から一挙に512億円積み増し、総額614億円になると発表したからだ。
ある地銀関係者は「欧米の銀行かと思った」と驚きの声を上げた。
今回のふくおかFGが計上した貸倒引当金には、これまで日本の銀行が使ってこなかった新たな算定の仕方が利用された。それが「フォワードルッキング引き当て」である。対象となったのは、積み上げ分のほとんどを占める418億円だ。
従来、引当金を計上するタイミングは企業の業績悪化の後に判断するのが一般的だった。ふくおかFGが採用したのは、マクロの経済環境などを基にして将来リスクを事前に損失として計上する算定の仕方だ。これにより20年3月期決算で、ふくおかFGの「経常利益」は52億円の赤字になった。
この引当金の手法で先行する欧米の銀行では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、GDP(国内総生産)の先行き不透明さから多額の引当金を積んだ。米大手銀行のJPモルガン・チェースの純利益は、20年第1四半期決算で前年同期比69%減の約28億ドルまで落ち込んだ。その主因はコロナ禍を警戒して前倒しで約70億ドルの引当金を計上したことだ。
邦銀では、#4「メガ銀に『新・不良債権』10兆円が殺到!コロナで名門3重工に再編劇迫る」で述べた通り、メガバンクも前期決算からこの考え方を導入している。「地方ではそれぞれ取引先業種の偏りがある」(大手地銀幹部)中で、最速でマクロ分析に基づく先進的な目線を導入したふくおかFGの取り組みは、他の地銀から驚きと焦りを持って受け止められた。
ただ、ふくおかFGには、新たな手法を導入できた特別な事情もある。長崎県の十八銀行と経営統合したことで、負ののれん益が大きく発生したことだ。「今回の引当金の積み増しは、この負ののれん益と併せて考えた」と福岡銀関係者は明かす。負ののれん益が反映された「当期純利益」は、前年比547億円増の1106億円となっている。
地銀がこうした独自の引当金を積めるようになった背景には、昨年12月、金融庁が銀行経営を一律に監督するための「金融検査マニュアル」を廃止したことがある。これにより、引当金を積むための方策は個別銀行の裁量に委ねられ、さらに金融庁が新たに銀行の検査や監督についての考え方を示した「ディスカッションペーパー」にフォワードルッキング引き当てが盛り込まれたからだ。