銀行vsコロナ#10

ホテル・飲食店・アパレル――。あらゆる業種でコロナ倒産が続出している。地方銀行が資金面を支えている、地方では知らぬ者はいない名門企業も打撃を受けるのは必至だ。特集『銀行vsコロナ』(全12回)の#10では、地方の老舗企業が直面したコロナ禍の傷の深さをレポートする。(ダイヤモンド編集部 重石岳史、田上貴大、中村正毅)

ホテル旅館・飲食店・アパレル
コロナ禍で倒産が多い3業種

 JR青森駅前で中規模のホテルを運営する国際ホテルが5月25日、破産手続きを申請した。前身会社は1938年の創業で、県内では老舗のホテルだった。

 過去の改装に伴う借入金が重くのしかかっている中で、コロナ危機による外出自粛によって売り上げが急減。資金繰りに窮し、事業継続を断念した。土地と施設は青森県内の別のホテル事業者が引き継ぐ予定だという。

 負債総額は約16億円。地元の関係者によると、主要取引金融機関は青森県信用組合で、規模に比べて与信残高が大きいことから「以前から大きな懸念材料として見られていた」という。

 一方で同信組は今年3月、全国信用協同組合連合会(全信組連)から72億円の資本注入を受けていた。資本の一部は貸倒引当金の積み増しに充当されており、国際ホテルの債権についても「すでに十分に引当金を積んでおり、今期業績への影響は軽微だ」(総合企画部)と説明している。

 早期の資本注入が奏功した格好だが、「事業継続が危ぶまれている中堅ホテルがまだ複数ある」(地元企業)といい、地方銀行や信用金庫をはじめ県内の金融機関への打撃となりそうな気配だ。

 全国規模の外出自粛は、地域経済も縮小させ、地域の名門企業を苦境に追い込んでいる。

 信用調査会社の帝国データバンクの調査によると、コロナ禍に関連した倒産は、すでに全国で192件発生した(5月28日時点)。そのうち法的整理が126件、事業停止が66件である。上位3業種は、「ホテル・旅館」(38件)、「飲食店」(23件)、「アパレル・雑貨小売店」(15件)という顔触れだ。

 ホテル・旅館は設備投資にお金がかかり、借り入れ負担が大きい。インバウンドの特需で支えられていたが、コロナ禍で海外からの渡航者が激減した。飲食店で倒産が目立つのは、チェーン展開していない零細事業者だ。もともとコロナ禍以前から経営環境が悪かった企業が、突然売り上げが蒸発したことで「とどめを刺されたかたちでの倒産が多い」と帝国データバンクの内藤修・横浜支店情報部長は話す。

 コロナ禍で初めて実質経営破綻した上場企業は、老舗アパレルメーカーのレナウンだった。レナウンのように、老舗と呼ばれる名門企業は各地に存在する。地銀など地方金融機関は、これら3業種をはじめ売り上げが激減した業種と向き合わなければ、地方の顔といえる企業の看板を失うことにつながってしまう。

 中部地方のある地銀幹部は、「リーマンショックのときは、企業と向き合わずに逃げた銀行もあった。返済猶予にも簡単には応じず、業況が悪化した企業からの融資の引き合いに対して、銀行は『資料を出せ』と厳しく追求した。それで倒産した企業もあった」と、昔の“すねの傷”を淡々と振り返った。「だが今は、当時以上に政府支援が手厚い。銀行側の厳しい姿勢は緩和されている」という。

「銀行の意識は変わった」と同幹部は断言するが、後述する通り、ホテルやアパレルなど多くの企業は業績悪化と戦っている。こうした企業への資金手当ての局面で、真に意識が変わったかどうかが試されるだろう。